W杯日本代表から漏れたあの日にキング・カズがやったこと 落選した選手へのメッセージ

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1998年の衝撃

 代表メンバーをめぐって、もっとも大きな国民的関心を集めたのは、1998年、キング・カズこと三浦知良選手が本番直前に選考から漏れた一件だろう。

 日本を代表するプレイヤーだっただけに、世間の衝撃は大きかったが、本人はすぐに気持ちを切り替えたのだという。ベストセラーとなった2011年の著書『やめないよ』には、その時のことをこう綴っている。

「すべての選手にとってW杯は大きな夢であり、最大の目標。何にも代え難いもの。でも23人という枠がある限り、外れる選手は必ずいる。落選の後、すぐに前向きに考えられるかどうかは人それぞれ。1998年に僕が外れたときは帰国したその日から練習を始め、すぐに気持ちを切り替えた。僕らはプロ。代表から漏れてもサッカー選手としての職を失うわけじゃない」

 そして、自分同様に選出から漏れた選手に対してこんな言葉も贈っている。

「逆境からはい上がるのは自分の力だということ。誰も助けてくれない。それが僕らの仕事。下を向く必要はないし、自分のやってきたことに誇りを持ってほしい。これから先のサッカー人生で今までと同様に感動を得られるし、与えることだってできる。

 誰かの得点をきっかけに笑顔が笑顔を呼ぶ。選手が悔しがっている姿を見て自分も頑張ろうと思う。それはJリーグでも少年少女の試合でも同じ。W杯のゴールだけがゴールじゃない。W杯だけが日本代表の試合でもない」

悔しさも楽しい

 もちろん、こんな風に達観ばかりしているわけではない。別の箇所ではこんな心情も吐露している。

「選手によっては、これだけ練習しているのに試合に出られないのだったら、こんな苦しい練習はもうしなくてもいいだろう、という気持ちにだんだんとなっていきがちだ。とりわけ、年齢を重ねると、どうしてもそういう類の言いわけを自分自身に用意してしまう。

 けれども僕は、どうしてもそういう気持ちにはなれない。1分も試合に使われなかったという悔しさ、むしゃくしゃする気持ちがとても強く出てきて、また練習に向かっていこうとする。その姿勢は、10代、20代のときから、まったく変わっていない。まあいいや、なんて思ったことは一度もない。

 ただ、僕は、そんな悔しさも含めて、いまもなおサッカーというスポーツを続けられていることが楽しくて仕方ない。

 たとえば、チームみんなでスーツを着て、新幹線に乗って、4時間かけて岡山に遠征に行く――というようなこと自体が嬉しい。サッカー選手である、と実感できるのだ」

 試合当日、監督からメンバーが発表される時は、10代の時と変わらずドキドキするのだという。

「(メンバーに)入っていなければ、居残り組の練習で鬱憤を晴らす。入れないのは悔しいけれど、プロの選手としてまだ戦っているということがうれしい。

 ブラジル時代に、メンバーから外されたり、試合で使われなかったときに思った『こんなクソチーム、やめてやる』という怒りの気持ちは、いまも変わらず湧き出てくる。でも、次の日に練習をすると、汗をかいてすっきりして、また新しいアイディアも出てきて、再生されてしまう。練習するまでは頭にきているのだけれども、『サッカーをやっていると、いいことあるよ。ちゃんと練習をやっていれば……』と自分を俯瞰して話しかけてくるもうひとりの自分がいて、感情的な部分が削ぎ落とされ、またサッカーをやろうという気になるのだ。

 未知の領域をこれからも、苦しみながら、楽しみながら、一歩ずつ踏みしめて歩いていこうと思う」

 その箴言はサッカー選手のみならず、あらゆる人の心に響く。すでにサッカー選手として未知の領域に突入して久しいキング・カズ。今回のW杯についてどう語るかも注目である。

デイリー新潮編集部

2018年6月12日掲載

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