官僚“癒着”の象徴 「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」とは何だったのか

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「悪事が悪事になるのは、人が騒ぎ立てるからですよ。こっそり罪を犯すのは、罪を犯すことにはなりません」。大蔵省(現・財務省)のエリートたちはモリエールの戯曲『タルチュフ』に登場するペテン師と同じ心境だったに違いない。平成10年(1998)1月に発覚した「大蔵省接待汚職事件」では、官僚らが金融機関による接待の見返りに便宜供与を図っていた。そんな癒着の象徴が、「ノーパンしゃぶしゃぶ」である。

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「掘り炬燵の席につくと、膝上20センチほどの短いフレアスカートをはいた20歳前後の女性が隣に座るんです。挨拶代りにチップを5000円渡すとその場でパンツを脱ぎ始め、それをお客さんの頭に被せたら、お楽しみの始まりです」

 ドンチャン騒ぎの様子を振り返るのは、何度も接待で新宿・歌舞伎町のノーパンしゃぶしゃぶ店「楼蘭」を利用したという、大手メーカーの元営業マンだ。

「天井から固定された4、5本のウィスキーボトルが逆さに下がっていて、注ぎ口にグラスを当てると中身が出てくる仕組み。客が水割りなんかを注文すると、女の子がグラスを持って立ち上がって手を伸ばす。するとセンサーが反応して、床から“シューッ”と空気が吹き出してスカートがめくれ上がるという寸法です」

 時にはヘアや局部まで丸見えになったそうで、

「無愛想な取り引き相手もハメを外してね。1本3000円のペンライトを購入すると、炬燵に潜って女の子の股間を間近に観察できるサービスもあった。お蔭で商談も上手く進み、接待場としては非常に使える店でしたよ」

 風俗店まがいのサービスがウリだけに、店は男性のみの会員制。料金は食事にアルコールの飲み放題がついて1人1万9980円也。が、女性に渡すチップを含めると、その支払額は優に1人当たり5万~6万円を超えたという。

 費用はかかるが、効果は絶大。格好の接待場所に、「MOF担」と呼ばれた金融機関の大蔵省担当者も目を付けた。連日連夜、「勉強会」「意見交換会」などの名目で、大蔵官僚たちを接待に誘い出したのである。その背景をベテラン社会部デスクが解説する。

「当時の金融行政は“護送船団方式”と呼ばれ、大蔵省が全ての金融機関を指導・監督していました。今と違って金融機関は新店舗の出店や新商品の発売など、何をするにも大蔵省の許可が必要でした。金融機関は、自分たちに有利な行政判断を下してもらったり、役所の本音を入手するための専門職を置いていた。それがMOF担で、彼らは日夜、大蔵官僚と酒食をともにして、懐柔や情報収集に当たっていたのです」

 ほとんどのMOF担は、東大法学部の出身者だった。

「大蔵官僚の多くは東大法学部の卒業生。そのため同じ接待をするにしても、同窓生なら共通の話題も豊富なので、費用対効果が高いと考えられたのです」

・軍資金・は月に数百万円から1000万円。赤坂、向島、浅草などの料亭や高級飲食店に留まらず、銀座や六本木の高級クラブで接待攻勢をかけ、行き着いた先が「ノーパンしゃぶしゃぶ」というわけである。

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