空腹と歩行と室温が「記憶力増強」の鍵! 東大大学院に首席で入学した脳研究者が解説する「効率的学習法」

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「覚えたはずなのに思い出せない! あ~あ、もっと記憶力が高ければいいのに」そんな切ない気持ちを抱いたことはないだろうか。

 確かに、私たち人間はすべてを記憶し続けることは出来ない。しかし、日頃のちょっとした工夫で、記憶力を高めることが出来ると解説するのは、東大大学院に首席で入学した脳研究者の池谷裕二氏である。池谷氏は、著書『受験脳の作り方 ―脳科学で考える効率的学習法―』のなかで、その理由と、それに基づく効率的な学習法を紹介している。(以下、同書より抜粋、引用)

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 私たちはヒトである前に動物です。動物たちは進化の過程で「記憶力」という能力を養ってきました。その痕跡(こんせき)がヒトにも残っていることを前提に考えるのです。

 たとえば、自分がライオンになったことを想像してみてください。ライオンたちが草原で生活するうえで、どんなときに記憶を必要とするでしょうか。こう考えることで、何が記憶によいかを、自ずと理解できるはずです。三つの例を挙げてみましょう。

 たとえば、生物にとっては「空腹」は危機的状態です。「腹が減っては戦はできぬ」と言いますが、この言葉はずいぶんと昔、おそらく、まだ食料の調達も食べるのもままならない時代の戦場での格言でしょう。現代社会のような飽食の時代に当てはめて、解釈してはいけないと思います。

 ライオンだったら空腹になれば、狩りに出ます。狩りをするときは、まさに記憶力を使う時間帯です。実際、腹がすいているときの方が記憶力が高いことが科学的に証明されています。あまりにも飢餓的状態はさすがにマズいのですが、たとえば朝昼晩の食事前などは、脳が適度に危機を感じている状況です。

 皆さんは学校から帰宅して夜寝るまでの間に、勉強時間をどこでとっているでしょうか。ほとんどの人は夕食をすませたあとに勉強を始めているようです。帰宅してから夕食までの間は、だらだらと過ごしがちでしょう。しかし、ライオンの例を考えれば分かるように、夕食前の空腹の時間こそが格好の学習時間なのです。

 また、ライオンは狩りをするときに歩いたり走ったりします。歩くと海馬から自動的にシータ波(記憶力を高める脳波)が出ます。その結果、記憶力が高まります。歩くことは記憶力アップのスイッチになっているのです。

 皆さんのなかには、歩きながら暗記すると覚えやすいことに気づいている人がいるかもしれません。私も高校時代はダイニングテーブルの周りをグルグルと回りながら、英単語や年号などを覚えていました。勉強机に向かって覚えるよりも効率がよいように感じていたからです。ただし、一般道路を歩きながら暗記するのは、交通事故の危険性があるから控えてください。

 動物実験のデータによれば、自分の足で歩くことがもっとも効果的なシータ波の出し方のようですが、そうでなくても、たとえば乗り物で移動しているときでもシータ波が出ることが分かっています。バスや電車に揺られていたとしても、移動しているという事実を脳が感知していれば、シータ波が出るようです。

 さて、空腹や歩行だけでなく、部屋の温度に関してもライオン法を応用できます。動物は寒くなると危機感を感じます。冬になると獲物にありつけないことを本能的に知っているからでしょう。

 したがって、部屋の温度は若干低くした方が、学習効率が高まります。夏ならクーラーのよく効いた涼しい部屋で、逆に冬はあまり暖房を効かせすぎない方がいいでしょう。受験前の正月シーズンに、コタツに入って、熱いお茶をすすりながら、ヌクヌクと勉強するのはあまりお奨(すす)めしません。

 また、室温が高いのは危機感が減るだけではなく、頭部全体の血流が変化してしまって、思考力が低下してしまうようです。脳温と室温にある程度の差がないと、頭はうまく働いてくれないのでしょう。古来言われて来た通り、「頭寒足熱」が原則です。

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 池谷氏は、「ライオン法を利用した方法として、ここでは、空腹と歩行と室温の三つを取りあげてみました。皆さんも独自に工夫をして、さまざまな場面に応用してみてください。意外な効果が現われることでしょう」と語り、「動物の長い進化の過程で培(つちか)われた性質を利用している方法ですから、効果は保証されていると言ってよいでしょう」とアドバイスしている。

デイリー新潮編集部

2018年5月2日掲載

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