ブナの木に潰された名車「トヨタ2000GT」 修理代は1億円以上で廃車の悲劇

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トヨタの名を冠した名車

 値段が高いのは、トヨタが満を持して作ったスポーツカーだったからだ。2000GTをはじめとするビンテージカーの販売やレストア(修理)を行うヨシノ自販(神奈川県横浜市)の芳野正明社長は言う。

「世界の名車のいいとこ取り。スタイルはもちろん、各部に最高技術を結晶させた車です。当時からトヨタは国内最大手の自動車メーカーでしたが、スポーツカーでは日産に遅れを取っていた。その遅れを取り戻すと同時に、世界最高速の記録を作るため、トヨタが赤字まで出して製造したのが2000GTなんです。1台売るごとに新車のカローラが1台付くような赤字が出たといいます」

 直列6気筒DOHCエンジンの排気量は1988cc。2シータ―で、いかにもスポーツカーといったロングノーズに、国産車初のリトラクタブル(格納式)ヘッドライトは、今見てもカッコいい。映画「007は2度死ぬ」(1967年公開)にも登場して、ジェームズ・ボンド(ショーン・コネリー[87])を乗せたほどで、幻の名車と言われる所以だ。

 その名車が倒木に潰されたのである。

争点は道路管理に

「オーナーは奈良県の会社役員で、誕生日を祝うために息子たちと五箇山の合掌造り集落に向かっていた時に事故に遭いました。2000GTを手に入れたのは、その3カ月前のこと。3500万円で手に入れたものでした」

 とは、代理人の山下真弁護士(49)である。オーナーらは2000GTの大破は道路管理者の責任として、富山県に3850万円の損害賠償を求めた。内訳は車代3500万円と弁護費用だった。当初、県は「倒木は予見不可能」と突っぱねた――。

 しかし、今年3月28日、県が1787万円を支払うことで和解が成立した。

「立証で苦労しましたね。県は車で道路を走って目視するだけのパトロールしかしてこなかったのですが、事故現場のすぐそばで倒木があったことも確認されました。樹木専門の大学の先生に意見書をいただくと、若葉が生えていて元気に見える木も、根本が腐っている可能性があり、災害などを伴わなくても倒れる可能性があるとのこと。それは、ちょっと山の中に踏み入って観察すればわかることで、全く予見できないというのは認識不足、ということでした。それで裁判所も、安全管理に再考の余地があるとして、和解を勧めたのだと思います。ただし、オーナーが2000GTの修理にいくらかかるか、トヨタに尋ねたところ、1億円はかかると言われたことから、さすがに復元は諦めたようです」(山下弁護士)

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