最期は「自宅」か「病院」か 日本一「在宅死」が多い自治体から学ぶ

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「看取り率」の高い町

 自宅で死ぬか病院で死ぬか――。2012年度に内閣府が行った「高齢者の健康に関する意識調査」では、55%の人が「最期を迎えたい場所」として自宅を挙げている。しかし、個人の希望とは相反し、厚生労働省「人口動態統計」では、2016年に死亡した131万人のうち医療機関で死亡した人が75.8%、老人保健施設と老人ホームなど福祉施設で死亡した人が9.2%、自宅で死亡した人が13.0%となっている。欧米諸国のそれを見ても、医療機関で死亡しているのは5割程度。日本の「病院死」の割合の高さが窺える。

 そんな現代社会において、例外的に「在宅死」の割合が高い地方自治体が存在する。ジャーナリストの大江舜氏がレポートする。(以下、『団塊絶壁』より抜粋、引用)

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 右肩上がりの経済成長と関係して、筆者の周囲を見ても昭和40年を過ぎた頃から、自宅より病院で亡くなる比率が高くなった印象だ。

 そんな中でも例外的な地方自治体が残っていた。兵庫県豊岡市である。

 同市健康増進課の井添俊宏課長から聞いた。

「2014年、豊岡市は病院ではなく自宅や施設で亡くなる人の比率、いわゆる看取り率が43・5%と、人口3万人から20万人未満の自治体の中ではトップでした。ただこれは、人口8万1000人の市に急性期の対応が中心の公立病院が3カ所しかないことが背景にあります。同レベルの自治体としてはかなり少ない部類です。そのかわり、往診可能な診療所の数につきましては、同レベルの自治体の中では全国屈指の往診体制がしかれた市といえます」

 看取り率が高いのには、ほかにも事情がある。

「そもそもかかりつけ医に診てもらう習慣、そして往診で対応する文化がありました。持ち家比率が約8割と非常に高いのも特徴です。そこに2世代、3世代の家族が同居する、昔ながらの住環境がありまして、看護にあたってのマンパワーが十分あることも在宅療養を可能にしている理由のひとつと言えるでしょう。家も広いため、部屋はいくらでも用意できますし、都会のアパートとは違ってバリアフリー化への改築なども容易です。こうした家族の環境に加えて、豊岡には隣近所の助け合いがまだまだ生きていることも大きいと思います」

 都会とは比ぶべくもない医療施設の不足が、かえって在宅死を可能にしている。実に皮肉な話だ。

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 井添俊宏課長の話から豊岡市で看取り率が高い理由をまとめると、以下のようなポイントが見えてくる。

(1)往診体制がしっかりしている
(2)かかりつけ医に診てもらう習慣がある
(3)複数の世代で同居している
(4)持ち家比率が高く、バリアフリー化も容易
(5)隣近所での助け合いが生きている

 都会では容易には実現できない条件もあるが、個人や自治体レベルで推進可能な条件もあるのではないだろうか。

 団塊の世代が75歳を超える2025年には、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上という、超高齢化社会を迎える。死亡者数も今と比べ年間約20万人も増加するとみられる中、死に場所を選ぶどころか、最期の場所を確保すらできない「死に場所難民」が発生するとも言われている。国は、06年に医師か看護師が24時間対応する「在宅療養支援診療所」を制度化したが、まさに豊岡市の例のように、医療と家族、地域などが一体となって高齢者を支える環境が「死に場所」を選ぶためにも必要不可欠のようだ。

デイリー新潮編集部

2018年3月14日掲載

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