“不倫”の言葉の裏にある夫婦間の感情を描いたドラマ「ホリデイラブ」(TVふうーん録)

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「自分だけは大丈夫!」と根拠のない自信を抱きがちなのが、病気と不倫である。「まさか自分が病気になるなんて」「うまくやってるから絶対にバレない」。病気と不倫を一緒にするのは大変失礼な話だが、往々にしてそういうもんだと思う。

 単身赴任中の夫の不倫が発覚したところから、物語が始まった「ホリデイラブ」。いまや国民的大好物(やや食傷気味)の不倫ドラマだが、どうやら夫婦再生の物語だそうで。配偶者の不貞をどう受け止めていくかを描くというので、ある種の実用番組になるのかな、とゆる~い期待を寄せていた。

 主役は仲里依紗。「ミセス狂気」の異名をとる怪優だが、今回は夫に浮気される「サレ妻」役(サレ妻って卑猥な響きよね)。一人娘を育てつつ、自宅でネイルサロンを開くやり手だ。

 夫役はいい感じでくたびれている塚本高史。いいパパ・いい上司と言われながらも、開けてみれば誘惑に弱いメンタルと下半身。不倫相手の自宅で、夫の不在時にセックスしちゃう超ド級のあさはかさ。そこ、理性と常識を出動させなよ!

 で、塚本の不倫相手はゆるふわ舌足らず系の松本まりか。エリート夫を捕まえた喜びもつかの間、夫のモラハラに悩み、他の男に救いを求める子持ち主婦。金で相手を選んだ代償は大きい。塚本に恋い焦がれる姿が薄気味悪くて、超絶いい。

 そのモラハラ夫は中村倫也。変幻自在の憑依(ひょうい)力でどんな役でもさらっとこなす中村が、今回は激高と空回りの虚しい男を演じている。

 W不倫をそれぞれの配偶者が弾劾する……なんて単純な話では終わらないのが、このドラマのエグいところ。

 仲は、自分の顧客で謎の女・壇蜜に、情報を操作されてハメられる。自称社長の若い男・山田裕貴にほだされ、性行為一歩手前までいってしまう。夫の不倫発覚で不安定な精神状態のときにはよくある話だが、脇が甘い、甘すぎる。身元確認&ネットで検索しようよ。逆に検索しても一切出てこない場合は、闇社会の匂いがするので激しく疑おうよ。サロンを開業するくらいのやり手なら、もう少し処世術と情報リテラシーがあってもよさそうなのにねぇ。

 また、中村は冷静沈着なエリートかと思いきや、法的手段には訴えず、個人的かつ感情的な制裁に固執する。それ、逆に手間じゃね? モラハラ&暴力の最低夫ではあるが、妻への愛がダダ漏れ。不器用な純愛主義者にも見えてくる。ま、そんなこんなで、夫婦間の「許す・許さない」が交錯し、小さな嘘が大きな障壁となり、問題は肥大化していく。

 実は、仲の姉・三津谷葉子も夫に浮気されて離婚したという設定だ。怒り狂い、夫を責め続けた挙句、憔悴しきった夫から離婚を懇願された女。一番の制裁は憤怒ではない、と心の深淵をのぞかせる。罪悪感と処罰感情の泥沼、キツイね。「浮気がバレて即離婚」って、案外幸せなのかもしれない。

 当初期待した不倫対策実用番組と呼べるほど、使える情報はない。でも、被害者側・加害者側の感情の乱高下は実体験できる。バーチャルリアリティか。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年3月8日号掲載

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