松重豊が語る「死」に涙 人が最期に帰る場所とは「アンナチュラル」第8話

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「死を忌まわしいものにしてはならない」というメッセージ

 一方、神倉は将棋の師匠であるゴミ屋敷の「屋敷さん」(ミッキー・カーチス)の元へと定期的に通っていた。屋敷は、UDIラボで解剖された妻・美代子の遺骨受け取りを拒否している孤独な老人である。久部は彼のゴミ屋敷の掃除手伝いを通して、遺骨を遺族のもとへ返すということの意義をより深く噛み締めているようだ。

 初めて神倉が屋敷のもとを訪れ、遺骨を返そうとした時の言葉を、私は胸の締め付けられる思いで聞いた。「死ぬのにいい人も悪い人もない。たまたま命を落とすんです。そして私たちはたまたま生きている。その私たちは死を忌まわしいものにしてはならないんです」。つい先日、俳優の大杉漣氏を病院へ連れてゆき、看取った俳優仲間である松重豊が発するこの言葉の重みに、涙した視聴者は多かっただろう。名作と呼ばれる作品は、ときに時代に呼応し、シンクロするようにこうした台詞を世に送り出す。

 罰が当たって死んだのだと思われたままでは、三郎が浮かばれない。事件の真相を探るため、久部はこれまで以上にアグレッシブな動きを見せ、対局中の神倉と屋敷のもとへ乗り込む。ここで、久部が屋敷と将棋を指したシーンは、本作演出の塚原あゆ子の別作品「Nのために」で窪田正孝が演じた、将棋上級者の役へのオマージュでもあり、久部が優しい表情で容赦のない強さを見せたことで、屋敷は彼に心を開いたのだった。

ひとが「帰る」場所

 その後、三郎の身体についていた不可解なロープの痕は、彼が消防士が人を介助する時の結び方で雑居ビルに残っていた人々を助けようとした痕跡であったことがわかる。両親に改めて、三郎の死因について説明するミコトと久部。三郎は、火事現場となったスナックを自分の家のように思っていた。だからみんなを助けに火の海となったビルの中へと戻った。頭蓋骨の骨折を負いながら、何往復もして何人もの被害者をビル最上階へ運んだ。それを知った父親は言う。「私は消防士でした。ロープは、私が教えました」と。そして三郎の遺体は晴れて両親に引き取られていった。

 そして久部は改めて、俊哉のもとへ赴き「どこへ進むのかUDIで考えたい、これからのこと」と勇気を出して伝える。生きているうちに、お互いが言葉を交わせるうちに。しかし久部が精一杯伝えた決意は父には届かず、勘当されてしまう。

 失意に暮れてUDIラボに戻った六郎は、美代子の遺体が屋敷のもとに引き取られたことを知る。「帰れてよかったね……よかった」と涙する久部の表情は、遺骨の棚の手前から映され、その泣き顔は見ることができなかった。しかし、肩を震わせ涙ぐんでいるであろう久部の演技は、十分に雄弁であり、まるで多くの身元不明の遺骨が彼を見守っているかのようなシーンだった。

 帰る家を失った六郎がオフィスに戻ると、ミコト、東海林、神倉は次々と「お帰り」と声を掛ける。だめ押しのように、中堂に「解剖の写真まとめとけって言ったろ!」と怒鳴られたところで、彼はこここそが今の自分の居場所、帰る場所であると実感し、笑いながら涙をこぼす。そのシーンの久部の表情は、今までのどんな場面よりも美しく、儚く、同時に深い安心感に満ちたものだった。

夕希子の死の真相解明に向けて

 久部は、週刊ジャーナルのバイトを辞めた。しかし一筋縄ではいかないのが記者・末次(池田鉄洋)のねじくれた俗物根性である。UDIラボに関する金銭スキャンダルの記事が、これから掲載されてしまう……? そして、久部が受け取りそこねた宍戸(北村有起哉)からの封筒には、中堂の殺された恋人・糀谷夕希子(橋本真実)の新作絵本のイラストが入っていた……。

 中堂はミコトにも夕希子の死因究明の協力を求めており、来週は彼女の死の真相が急転直下で明らかになる見込みだ。久部の未来、ミコトの過去、そして中堂の負う深い傷がどのような結末を迎えるのか、祈るような思いで次回を待つ。

(西野由季子)

2018年3月9日掲載

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