“あなたの隣にいるかも”なサイコパスドラマ「きみが心に棲みついた」(TVふうーん録)

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 これまでの人生で、身近に虚言癖が何人かいた。距離を置くことで実害は免れてきた。友人から聞いた話も含めると、虚言だけでなく学歴や職歴まで詐称する人、情報操作で人を支配したり陥れたりする人がこの社会には相当数生息しているようだ。彼らは嘘がバレても動じない。罪悪感がない。良心の呵責(かしゃく)もない。会社や職場にこの手の人がいると、まともな人は疲弊する。

 今期ドラマではこの手の人、通称「サイコパス」が花盛り。映画によく出てくる猟奇的な殺人犯ではない。エリートや魅力的な外見の人で、社会になじんでいる人が多い。生まれながらに意地悪の域を超えたサイコパスの悪行三昧は、テレビドラマにぴったりだもんね。

 こうなったらサイコパスについて学んでおこうと思い、資料本を3冊購入。なかでも、マーサ・スタウト著『良心をもたない人たち』(草思社)が特にわかりやすかった。身近なサイコパスにどう対処すべきか、13のルールも書いてある。そんな下準備をして「きみが心に棲みついた」を観ている。

 これを簡単に解説するならば「サイコパス男と、彼に恋をした女の共依存。この2人がまっとうな人々を巻き込んで社会的に損害をもたらす」ドラマ。恋愛モノじゃなくて、社会問題として捉えていきたい所存。

 主人公の吉岡里帆はとにかくイラッとさせる。挙動不審で「キョドコ」の渾名(あだな)がつく理由も納得。でもイラッとさせるのは挙動不審だからではない。人との距離感を計れず、大量のメールを一気に送ったり、人前で重い言葉を大声で吐いたり、人の好意や約束を平気で反故(ほご)にしたり。共感や同情は1ミリも起きない。いくら母親から酷い仕打ちを受けてきたとしても、友達がいなかったとしても、頑張れと思えず。共感ゼロの女を吉岡が熱演。今のところよく脱ぐ。無駄に脱ぐ。原作では確か性被害だったので、これはTBSの配慮か。でも、下手な配慮が共感を削いでしまった感じも。あ、TBSだからか? 伊藤詩織さんへの謝罪ってこと?

 で、エリートサイコパスという設定の向井理だが、なんか立ち姿が2次元。いかにも漫画に出てきそうな外連味(けれんみ)。スーツが体に合っていないのか、ぼやっとしたシルエット。狙いなの? 親から虐待されていた、整形したなどの過去を小出しにしつつ、向かった先は微妙な2・5次元になっとる。

 パワハラ、セクハラ、人権侵害の加害者・向井も、#MeTooに参加すべき被害者である吉岡も、このままいくと全部親のせいにして、性善説で終わりそう。権力や暴力に立ち向かおうとする女性にどうか希望を与えてくれますよう。サイコパスが法的あるいは社会的に制裁を受けますよう。

 今回まっとうな人としては、厄介な吉岡を受容する寛容な先輩・瀬戸朝香、吉岡に振り回される桐谷健太、向井をサイコパスと一瞬で看破したムロツヨシがいる。彼らの常識と良心のお陰で、私もなんとか平静を保てる。面白くはない。ただ、今期最も胸がザワつく作品だな。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年2月15日号掲載

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