今度は「ワクチンは無意味」と言い出した近藤誠 そのウソを暴く

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30年前の論文

 最初に、流行の季節を迎えているインフルエンザから触れていきましょう。近藤氏は次のように記します。

〈インフルエンザは、ただの風邪です。乳幼児もインフルエンザでは死にません。死ぬ子がでるのは、解熱剤や抗ウイルス薬を使うからです。(中略)ただの風邪を予防するために打つには危険すぎ、無用です〉

 インフルエンザウイルスにはA、B、Cの3型があり、大きな広がりを見せるのはA型とB型。さらにA型は連続抗原変異といって、巧みにマイナーチェンジを繰り返すので毎年流行することになります。10年から数十年の周期でフルモデルチェンジをして猖獗(しょうけつ)を極め、パンデミック(世界的流行)を起こすと、多くの死者を出すことも歴史が物語っている。

 さて、インフルエンザが問題になるのはとくに高齢者。心臓や肺に疾患を抱えていたり免疫機能が低下している人の場合、二次的な肺炎を起こしやすく入院や死亡のリスクが高くなります。例年のインフルエンザ感染者数は、国内のみでざっと約1000万人。インフルエンザが引き金となる肺炎のように、間接的な要因まで含めた「超過死亡」という推計によると、インフルエンザ流行による年間死亡者数は、世界で約25万〜50万人、日本では約1万人。さらに、主に5歳以下の乳幼児はインフルエンザ脳症リスクがあるため、ワクチンでの集団防御が望ましいといえます。決して「ただの風邪」ではないのです。

〈群馬県前橋市における大規模調査で、ワクチンを打ってもインフルエンザにかかる人びとが減らないことがわかりました。社会防衛論は根拠のない空論だったわけです〉

 近藤氏は、今から30年も前に刊行された前橋市医師会が中心となって作成した論文「前橋レポート」(http://www.kangaeroo.net/で閲覧可能)を前提にしているようです。ワクチン否定論者にバイブル扱いされているものですが、いま見返してみるとデータの統計的な扱い方に難があります。内容は、不均一なデータを駆使しながら、学童を対象にワクチンを接種してもしなくても学校欠席率に差が無かったことを示しているだけ。欠席理由は、インフルエンザばかりでなく、風邪なども含まれています。「社会防衛論は根拠のない空論」と結論づけるほどのインパクトはどこにもありません。一方、海外から報告されているインフルエンザワクチンの有効性を示す数多の臨床試験データについて黙殺しており、フェアではない。挙句には次のように言い放つ始末。

〈高齢者は、いつかは亡くなる運命にありますが、インフルエンザにともなう肺炎や肺炎球菌肺炎は、相当ラクに死ねるので、ある意味、理想的です〉

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