セレブ一家の不祥事とドタバタを半笑いで見守るドラマ「もみ消して冬」(TVふうーん録)

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 知人は、両親も、10歳以上離れた兄も医師という家に生まれた。自分だけ医師にならなかった。そのせいか、兄の過干渉が激しく、口うるさい保護者が3人いるような状態に嫌気がさすという。本人は必死で反抗しているというものの、精神的にも経済的にも家族に依存しているようにしか見えず。インテリセレブ一家特有の兄弟姉妹間しがらみ。大変だねぇと遠目に眺めるのみ。

 似たような状況のドラマがある。日テレの「もみ消して冬」だ。教育者の父、外科医の兄、弁護士の姉、そして主役の末っ子は警視庁刑事部勤務のエリート幹部候補生。全員が東大卒。金持ち一家が職権濫用&札束の力で、家族の醜聞や悪事をもみ消すコメディだ。

 記憶に残るほどの中身やドラマとしての気骨は一切ないのだが、この一家の顔立ちが絵に描きやすそうだったので、俎上(そじょう)に載せてみる。描けば描くほど、神の悪戯もしくはDNAの誤作動を確信した次第。

 父はツルンと可愛いおばちゃん顔の中村梅雀。こういう顔立ちのおばちゃん、全国に5万人はいると思う。兄は長めのもみあげすらエキゾチックに見える小澤征悦。姉は、ダイソンのごとく相手を吸引しそうな勢いの目力をもつ波瑠。末っ子は小ぶりで劇画調顔の山田涼介。顔のパーツだけで言えば、池上遼一の漫画にいそう。描いていたら意外と楽しかったんだよね、全員濃厚民族で(梅雀除く)。

 初回、もみ消されたのは父・梅雀の色恋沙汰だった。名門私立中学の学園長でありながら、生徒の母親(磯山さやか)と恋に落ちる。が、全裸の写真を撮られ、金を要求される。金目当てと知らず、浮かれて足にタトゥーまで入れちゃう梅雀。

 妻に先立たれているし、相手もシングルマザー。不倫ではないが、生徒の親に手を出す不道徳を公にされないよう、末っ子の山田が暗躍。兄と姉は職権濫用で磯山の個人情報をかき集め、証拠写真消去&隠蔽の実働は山田にすべて押し付ける。

 山田は自分の人生を自分で決める権利すらない。進学も就職も、兄と姉に命令され、隷従してきた末っ子だ。優秀な兄と姉には到底追いつけない。家庭内で小さな努力と気遣いを心がけてきたが、誰ひとり認めてくれず。山田の承認欲求は募る一方という背景がある。権威を守るためには、不法行為も厭(いと)わない兄と姉。山田は、警察官の正義か、家族からの愛と承認の獲得か、で身悶えながら、逡巡する。

 それにしても山田の心の声シーンが多すぎる。味の素のCMかと思った。母親のまずい料理を心中でひそかにディスる息子ね。心の声に合わせた顔芸&火曜サスペンス劇場の音楽を背負わされる山田。しかし、苦労も努力も報われず、膝を抱えて、ひとり涙する。

 末っ子の承認欲求という興味深いテーマなのに、全体的には軽くて薄い(時にしつこい)コントに仕上がっている。今後も、小澤や波瑠の過酷な無茶ぶりに苦しめられ、時折、謎の寸劇も交えて、家族の不祥事や恥を隠蔽し続けるのだろう。小難しく考えず、金持ちの道楽を愛でる気分でどうぞ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年2月1日号掲載

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