ジェンダーの壁を超えて“人間”としての生き方を描いた「アンナチュラル」第3話

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性別を超えた法医学のプロとして

 一方、中堂は、「クソ!」という口癖に象徴されるような、乱暴な物言いや仕草から、臨床検査技師の坂本誠(飯尾和樹(ずん))にパワハラで訴えられていた。ミコトは自分が代わりに坂本に会い、新しい職場を紹介しに行くから、代わりに中堂に弁護側の証人として出廷してもらえないかと頼む。なぜなら、中堂は「男性」だから。

 証人として法廷に立った中堂の迫力は圧倒的で、ホルマリン液から検出された成分から、凶器は特殊な砥石で研いだステンレスの包丁であることを淡々と述べる。そして、真犯人は料理人だった被害者の弟だったことが判明した。烏田がやり込められ、要一に御礼を言われた中堂は「女は信用できねえとかお前がクソ小せえこと言ってるから俺が駆り出されたんだ」と吐き捨てる。また「クソ」って言ってる……と私が苦笑したのはここだけの話だ。

 とにかく本作は、脚本が細部に至るまで計算しつくされている。法廷を去る中堂が「人なんて、どいつもこいつも切り開いて皮を剥げばただの肉のかたまりだ。死ねば分かる」と言い放つのは、ジェンダーの差異に振り回される浮き世の人間たちへの、強烈なパンチだった。裁判を終えてラボの庭でバーベキューをしている久部が「親族間の殺人は別れられないから起こる」と呟いたのも、ミコトに本当の親族がいないことを改めて思い出させる、象徴的な台詞に聞こえた。

 そしてさりげなく、ジェンダー以外の問題をラストシーンで示されたのが実はもっとも印象的な場面だった。なぜ自分で出廷して、無実を証明しなかったか? 証人を中堂に託したことは、女である自分が結局逃げたことにならないのか? そんな問いを、夕子や久部はもちろん、視聴者も抱いたことだろう。それに対してミコトは言う。

「法医学は法治国家に不可欠な学問。法医学がおざなりにされるってことは、無法の国になるってこと」と。ここにさりげなく、政治的なメッセージが込められている。現代の日本は、長らく一党が権力を持ち、議員の数に物を言わせて行政だけでなく立法や司法までもうやむやに溶かされる危険に晒されている。そんな“無法の国”になりかねない日本の現状を、ちらりと風刺する見事な台詞だった。その後のミコトの「だから今日のところは、法医学の勝利で良しとしておくの」という言葉は、性別の関係ないひとりの人間として、いや、人間を超えて学問そのものを尊重する真のプロフェッショナルの言葉として響くのであった。

 次回はついに、怪しげな葬儀業者、木林南雲(竜星涼)と中堂の関係、中堂の過去が明らかになりそうだ。濃密な会話劇、スリリングな映像美、様々な問題提起をはらんだ今作からますます目が離せない。

西野由季子(にしの・ゆきこ)

2018年2月2日掲載

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