群雄割拠の正月番組でドラマ始め(TVふうーん録)

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 年末年始はほぼテレビ漬けだった。番組名は長いので省略する。元ナスDとよゐこの無人島に感心し、運動神経悪い芸人のザブングル松尾に涙を流して笑い、娘の試合を観戦する野沢直子の声が入らなかったことに安心し、原田龍二と袴田吉彦のほぼ全裸に目をかっ開き、滝藤賢一の自在な涙に驚愕。竹原ピストルとエレファントカシマシの歌に無粋な演出がつかなくて安堵し、不老レス聖子に戦慄し、X JAPAN・YOSHIKIの「洗脳星」ツッコミに驚き、マレーシアで狂喜乱舞する香川照之を観察。アキラ100%の股間を凝視し、和牛とゆりやんレトリィバァに笑い、中居正広の72時間ホンネの旅を意外と楽しみ、今に至る(3日夜)。

 が、やはり正月のドラマについては書いておきたい。

 まずは定番「相棒~元日SP~」(1日放送・テレ朝)。熱望するのは、ずっとレギュラーだが、セリフがない2人組だ。ガラス越しに特命係を覗いている、ヒゲ&オールバックの志水正義と巨漢の久保田龍吉ね。毎年正月版だけには、このふたりの見せ場が用意されている。今回はハッカー少年の警護だった。お疲れ様。

 物騒なタイトル「都庁爆破!」(2日放送・TBS)は吉川晃司のアクションが秀逸。未だにあんなに脚が上がるなんて! 逆に主役の長谷川博己は、腰抜けっぷりが生まれたての子馬のようでいとおしかった。内容を一言で表すなら「公務員のための危機管理訓練ビデオ~激闘&家族愛編」だ。

 予想外の展開で面白かったのは「忘却のサチコ」(2日放送・テレ東)だ。「孤独のグルメ」のような定番の食べる系かと思いきや! 主役の高畑充希は、結婚式の最中、新郎に逃げられた女だ。日常生活に支障を来すほどの精神的ダメージを受けたが、男を忘却するために奮闘する。高畑が走る、食べる、そしてなぜか鞭を打つ。地味だが失恋から立ち直る女子の心模様をしっかり描き、心を震わされた。

 最も唸ったのは「風雲児たち~蘭学革命篇~」(1日放送・NHK)である。解体新書ができるまでを描いた物語で、人間の心の澱(おり)を掬(すく)うような名作だった。「ターヘル・アナトミア」を翻訳し、日本に知らしめたのは杉田玄白だと思っていたが、陰の立役者として前野良沢がいたのだ。言葉の正確性を追求して翻訳に時間をかける前野役は片岡愛之助、言葉への拘泥は枝葉末節と考え、それよりも蘭学(西洋医学)の発展を急ぐ杉田役に新納(にいろ)慎也。この両極端のふたりをなだめて支えるのが、村上新悟と迫田孝也。

 特に、新納がこの上なくキュートで生臭かった。大雑把でせっかちで無神経な彼の言動には、痛く共感してしまった。解体新書の出版に向けて営業活動し、対立する漢方医からは狙われ、時には権力者に袖の下を渡す。新納は名誉欲のためにちゃっかり立ち回っているように見えて、実は汚れ仕事も厭(いと)わぬ努力家なのだ。

 漢方医が権力を握る時代に、西洋医学の隆盛に尽力した男たちの心意気をこんな形で見せるとは。感動を押し付けてこない軽妙洒脱な展開が元日に最適だった。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2018年1月18日号掲載

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