エイズ治療の最前線 「死の病」との戦いはどう進化したか

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「エイズパニック」

 かつてエイズは「死に至る病」の象徴だった。

 この病は、HIVに感染することから始まる。すると、血液中の免疫細胞「CD4陽性リンパ球」の数が、ウイルスの攻撃により減少し、免疫力が低下していく。その結果、感染症やがんを発症した人を「エイズ(後天性免疫不全症候群)患者」、感染しているものの未発症の人を「HIV感染者(陽性者)」と呼ぶ。発症すると、カポジ肉腫やカンジダ症、ニューモシスチス肺炎といったさまざまな病気に罹患しやすくなる。HIVに感染後、治療しなければ、数年から10年程度の潜伏期間を経た後、確実にエイズを発症し、その後2〜3年で死に至る。

 この病が世の中に知られるようになったのは、1980年代前半。81年に、米国で同性愛者の男性がエイズ患者として初めて症例報告された。日本では85年、最初のエイズ患者が見つかり、87年には神戸市内で初の女性患者が確認された。マスコミもこぞって報道し、「エイズパニック」と呼ばれる社会現象にまでなった。

 しかし、それから30年経った今、冒頭のように、エイズ治療は驚くほど様変わりしている。

 その進歩は、「科学の発展」と「治療法の変化」による。

 当初、治療法がまったくなかったこの難病に対して、ウイルスを抑制する抗HIV薬が発売されたのは、87年のこと。エイズ研究の草分けのひとりである満屋裕明氏(現・国立国際医療研究センター研究所所長)が「アジドチミジン」という薬に抗HIV作用があることを発見したのが始まりだ。これにより、患者の余命は延びた。

 しかし、問題もあった。

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