誕生から50年「リカちゃん人形」秘史 北原照久氏がプロデュースした“ハマトラ”リカちゃん

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「横浜元町リカちゃん」

 また、この時に記念商品として作ったのが「横浜元町リカちゃん」だった。どのような企画展でも、記念商品は作られるものだが、リカちゃん40周年の記念の年、横浜ならではのリカちゃんは、“ハマトラ”ファッションのリカちゃんだろうと考えた。70年代末から一大ブームとなった、横浜トラディショナルのリカちゃんだ。

 歴史ある横浜と一緒に発展してきた元町ショッピングストリートは、“K”マークで有名なバッグのキタムラ、タツノオトシゴのワンポイント刺繍のフクゾー、坂の多い横浜で女性たちの圧倒的支持を誇る靴のミハマ、かわいらしいデザインでありながら長年愛用出来るアクセサリーのスタージュエリー、フランスパンが人気のポンパドウルなど、名店揃いである。

 リカちゃんはそれまでひとつのブランドで統一された企画ファッションはあったが、複数のブランドがコラボしたものはなかった。だから、これら複数の元町ブランドをコラボしたリカちゃんを思いついたときには、多くの人から無理だろうといわれたものだ。複数の会社から許可を取ることはもとより、足並み揃えて製作を進めることが困難だからだ。

 キタムラの社長・北村宏さんに相談すると、自ら僕を各店に連れて行ってくれ、自分のことでもないのに頭を下げて回ってくれた。おかげで複数社コラボのリカちゃんができあがった。

 ただし、完成した「横浜元町リカちゃん」の値段は1万2600円。いずれも本気で作ってくれたからなのだが、高価だ。だから1000体だけ作った。十分だろうと思っていたのだが、わずか3日で完売した。大した宣伝活動もしておらず、雑誌に掲載されたときには在庫無し。全国からの苦情に次ぐ苦情に追われた。

 リカちゃんの人気を再認識させられ、急遽、色違いカーディガンの同スタイル版を作って、信頼回復に至った思い出がある。元町リカちゃんは、このあとも継続することとなり、近沢レースの日傘なども加わり、都合第6弾まで発売されることになる。

 また09年に横浜が開港150周年を迎えることを記念して「赤いくつリカちゃん」も作成した。こちらも1000体作ったが、リカちゃんファンに横浜ファンが加わって、即日完売──。

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(下)へつづく

北原照久(きたはら・てるひさ)
1948年東京生まれ。大学時代にスキー留学したヨーロッパで、ものを大切にする文化に触れ、古い時計や生活骨董、ポスター等の収集を開始。現在はブリキのおもちゃコレクションの第一人者として世界的に知られる。

週刊新潮 2017年9月21日号掲載

特別読物「誕生から50年! 進化を続ける『リカちゃん人形』秘史――北原照久(玩具コレクター)」より

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