2年連続で世界一! あの長寿大国を現地取材 “日本女性”を抜き去った食の秘密

ライフ週刊新潮 2017年12月14日号掲載

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2年連続「平均寿命」が世界一! 長寿大国「香港」で食探訪(上)

「長寿国」日本に目下、手強い壁が立ちはだかっている。平均寿命で男女とも世界一の座をキープしている香港である。面積わずか1100平方キロ、東京都のほぼ半分の広さに734万人がひしめきながら、命はいかに育まれているのか。現地で「食の秘密」を探訪した。

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 香港は2015年の調査で男性の平均寿命1位。女性も日本を抜いて筆頭に躍り出た。続く16年も、男女ともにトップ(81・32歳、87・34歳)を維持している。

 ちなみに日本の女性は、26年連続で世界一だったが、11年に初めて香港に抜かれている。その後3年間は首位に返り咲いたものの、15年は前述の有様……。

 実地調査などで香港を複数回訪れた、武庫川女子大学国際健康開発研究所の家森幸男所長に聞くと、

「香港の長寿には食生活と運動の習慣、そして『心の健康』が関わっています」

 としながら、

「日本人は魚をたくさん食べますが、そこで醤油など塩分を多用するため高血圧になり、脳卒中が多い。こうした背景がランキングで負けた理由でもあります。食材で言えば、香港では豆腐や豆乳といった大豆製品を日常的に摂っている。豆腐は、海水を煮詰めて製塩した後の残液で塩化マグネシウムが豊富な『にがり』で固める、昔ながらの製法です」

 英領時代から、多彩な食文化が融合しており、

「大豆文化の源流である貴州省や、野菜や果物を多く摂るウイグル自治区など、大陸の各地から長寿食が庶民の生活に入り込んでいます。市場では鶏や魚が生きたまま売られている。食材は新鮮で、保存食へと加工しないので、大量の塩を使う必要がないのです」

 あわせて、心の健康についても指摘するのだ。

「世界の長寿エリアを歩きましたが、互いの心の交流が多い地域は、長寿になる傾向が顕著です。香港は食事の内容だけでなく、孤食が少ない。土地が狭く住環境がよいとは言えませんが、高層住宅の上下に四世代が住んでいたりし、異世代で一緒に食事ができる。日本では、特に高齢の独居男性では孤食や外食が多い。塩分摂取はおのずと増え、笑いや交流は減っていく。これでは長寿は望めません」

 勝敗は、こうした事情が左右していたというのだ。

 そこで今回、本誌(「週刊新潮」)は「命を延ばす香港食」を訪ねて現地取材を敢行。街や家庭で実態に迫ったのである。

「医食同源」の発想

 まずは香港島にある「漢方街」。中心の交差点から四方に延びた通りには、漢方を扱う店舗が100軒近く並んでいる。香港在住で『世界一の養生ごはん』の著書がある、中医学博士の楊さちこ氏が言う。

「漢方には基本となる24種の素材がありますが、香港の人は皆その名前と効能が頭に入っています。中には体質で摂らない方がよい素材や、各家庭で伝統的に飲まれているものもあり、ブレンド法は多種多様です」

 現地では「医食同源」という発想が根付いていて、

「病気を治す治療と食事は、源を同じくするという考えです。体調の異変を感じたら病院に行って薬を貰う前に、まず症状に合った漢方をお茶やスープで飲んだり、食事でカバーするのです」

 一軒の店に入ると、店主がガラス瓶を指して言う。

「これは羅漢果を干したもの。体が温まるから冷え症におすすめだね」

 一口かじると、チョコレートのように甘い。続けて端から説明してくれた。

「みかんの皮は咽喉の炎症や耳鼻の不調に効く。タツノオトシゴは鎮痛や血行促進の効能がある。ヤギの角は頭痛に効くし、ムカデには解毒作用がある。ツバメの巣は滋養強壮によくて、がんにもいいと言われているんだ」

 そこに、86歳の老婆が来店。虫らしきものを大量に買っていたので聞くと、

「セミの幼虫よ。眼に効くの。老眼だからこれでスープを作って飲んでいるのよ」

 周囲を見れば、街中のあちこちに「涼茶(リョンチャ)」と書かれた看板が目につく。が、決して冷たいお茶が飲めるわけではない。

「漢方を使ったブレンド茶のことです。『涼』と書くのは体内の熱や炎症を取り去り、解毒作用があるからで、漢方の基本で『去湿解毒』と言います。暑くて体がだるい時や、ジメジメして気分がさえない時は涼茶で体調を整えるのですが、体を冷まし過ぎるのはよくない。多くても1日2杯までが適量とされています」(楊氏)

 香港島中心部の湾仔(ワンチャイ)駅近くでは、立ち並ぶスタンドの店頭に涼茶のコップが置かれ、客が水分補給のように飲み干し、代金を置いていく光景が繰り返されていた。

 その中の一つ、創業104年の老舗「楊春雷」で24種ブレンド(1杯11香港ドル=約160円)を試すと、墨汁を薄めたように真っ黒な茶はぬるく、サラサラした舌触りでありながら実に苦い。100メートルほど離れたスタンドでは、若い女性が羅漢果を使った茶を、汁椀ほどある器で飲んでいた。彼女いわく、

「羅漢果茶は便秘改善に効くし、味もこっちの方が飲みやすいから」

 こちらもハシゴして睡眠不足に効くという「野葛菜水」を注文すると、真っ黒ながらコンソメスープのようなコクのある味わい。

 それぞれが“こだわりの一杯”を持っているのだ。

 そもそも飲料については、

「『冷えは万病のもと』というのが中医学の考え方。香港では、日本と違って飲食店で氷の入った水は出てきません」(楊氏)

 ビールも観光客の多い店では冷たいものが出されるが、コンビニなどでは当たり前のように常温で売られている。また、飲茶の店などで定番メニューとなっているのが「ホットレモンコーラ」。人肌よりやや温度が低いコーラに、レモンスライスを数枚乗せ、スプーンで潰して果汁を流し込んで飲む。値段は大体18香港ドル。

 で、何とコーラは「風邪薬」にも転用されるという。

「中医学では『甘いものは体を温める』とされており、風邪で体が強張った時が出番です。ホットレモンコーラに、家庭で常備されている生姜をすりおろしたり、しぼり汁を加えたりして飲むのです。レモンでビタミンCを補給、生姜は発汗を促してくれます」(同)

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(2)へつづく

特集「2年連続『平均寿命』が世界一! 不動のトップ『日本女子』も抜き去られた!! 現地取材で『命の食』探訪! 小さな長寿大国『香港』に学べ」より