水道橋博士が明かす 師匠たけしの情けなくも笑える話

エンタメ 芸能 2017年12月13日掲載

  • ブックマーク

 芸人や職人の世界、あるいは歌舞伎など伝統芸能における人間関係で、ひときわ重要なのが、師匠と弟子の関係だろう。その道の第一人者である師匠の一挙手一投足を見つめながら、弟子はその芸や技を盗み、一人前になるべく精進する。日夜生活を共にすることで生じる濃密な人間関係は、「上司と部下」「先輩と後輩」といった関係に終始する会社員では、なかなか経験できないものである。

 だからこそ、師匠と弟子という関係に焦点をあて、切り取られる物語は、多くの人を魅了する。

 師匠・ビートたけしと、「たけし軍団」をはじめとする弟子たちの交流については、これまでも多く語られてきた。「ビートたけし原理主義」を標榜する、浅草キッドの水道橋博士もその語り手の一人である。

 その最新刊『藝人春秋2』(上下巻、文藝春秋)では、自らを芸能界に潜入した“スパイ”として、主にテレビを主戦場とする芸人やタレントの知られざるエピソードに迫る秀作である。当然、師匠・ビートたけしも登場、そこではビートたけしが愛した二つの「名車」に関する印象的な逸話を書き残している。

 ひとつ目の「名車」は、真っ赤なポルシェ。『藝人春秋2』の上巻から引用しよう。 

「殿は80年代の漫才ブームの頃に、売れに売れて、初めて赤のポルシェ924を買ったんですよ。当初は『さすがポルシェはエンジンブレーキが凄い!』って大喜びしてたんですが、なんてことはない、単に慣れない左ハンドルのせいでサイドブレーキを下ろし忘れていただけで。結局、高速道路で火を吹いて全損しちゃって」

 ふたつ目は、20年以上乗り継いでいるというロールス・ロイス。初めて購入したとき、「で、いざロールスが納車って時になってよォ、免許を更新し忘れてるのに気付いてよォ」と、慌てて都内の運転免許試験場に行き、なんとロールス・ロイスに「仮免許練習中」と書いた段ボールを貼って運転したというのだ。

 いずれも超高級車とのギャップが激しい、何とも情けなくも笑えるエピソードである。

 本書のテーマを「ビートたけし史観による芸能史の後世への記録」と位置付ける水道橋博士だが、以前は、客前で芸を見せるのが「本業」の芸人が「なぜ本を書くのか?」と逡巡したこともあったという。

 そんな悩みを吹き飛ばしたのも、師匠の一言だった。

「オマエはよー、やっぱり文章が上手いから、これからも書けよ」

 この言葉に背中を押され、以降は筆を執ることに躊躇しないようになったという。

 その言葉を裏付けるのが、師匠・ビートたけしの近刊『バカ論』(新潮新書)の一節だ。

「よくみんな勘違いしているけど、師匠が弟子を作るんじゃない。その逆で、弟子が師匠を作る。特に芸人の場合は。

 弟子が『うちの師匠はこうだった』と、その恩やエピソードを語ることもあれば、笑えるネタとして師匠の情けない話もする。あることないこと話をじゃんじゃん作って、ひとつのエピソードにする」

 この言葉通り、ビートたけしは自身の師匠である深見千三郎のことも、しばしばネタにしてきた。崇拝の念をストレートに表明することもあれば、深見が戦時中の事故で失った左手の指のことや、その悲しい最期についても、笑い話へと昇華してきた。その弟子である水道橋博士もまた、師匠の笑える話、情けない話をネタにし続けている。

「自分の師匠の話というのは、芸人の武器にもなる」――。

 この“教え”を忠実に実行した水道橋博士と、それを促す師匠・ビートたけし。2冊の本を通して、師匠と弟子がエールを交換する姿は、実に魅力的である。

デイリー新潮編集部