クソ男オブザイヤーにお仕置き! 誰の本心もわからない!「監獄のお姫さま」第8話

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 あるイケメン社長へのリベンジを企むワケアリの女たちを描く「監獄のお姫さま」。物語は女たちが大企業の社長である板橋吾郎(伊勢谷友介)を誘拐、監禁した2017年のクリスマス・イヴと、彼女たちが出会った女子刑務所内での回想シーンを行き来して進む。

 脚本は宮藤官九郎。手を組んで板橋に復讐する元女囚たちを演じるのは小泉今日子、菅野美穂、坂井真紀、森下愛子、そして夏帆。女たちを統率する元看守役には満島ひかりという、豪華な美女たちが勢揃いだ。物語はいよいよクライマックスに近づき、これまで張り巡らされた伏線の回収へと一気に勢いが増している。

 ところで、Twitterで、「#クソ男オブザイヤー2017」というハッシュタグが流行っていることをご存知だろうか。ちなみに「#クソ女オブザイヤー2017」というハッシュタグもあって、笑えるものもあるし、ドン引きするものもあるので趣味は悪いがよかったら検索して見てみてほしい。意外とみんな冷静に自分の過去の恋愛を自嘲していて、タグ名の品のなさのわりには、読み物として面白い。

 そう思うと板橋は「クソ男オブザイヤー2014」から「2017」までの四冠王と言って差し支えない。何しろ三股を掛けたあげく、1人を殺害し、1人を監獄に閉じ込め、1人と結婚することで社長の座にのし上がったのだから。

 2017年のクリスマスイブ、板橋夫人、晴海(乙葉)のもとへ呼び戻されたふたば(満島ひかり)は、元女囚たちの復讐計画を晴海に話す。ふたばは、晴海を乗せた車をぶっ飛ばして板橋の監禁場所へと向かう。果たしてふたばは誰の味方なのか……?

 時は2015年に戻る。美容師免許を取った馬場改め榎木カヨ(小泉今日子)は、恋人である検事の長谷川信彦、通称のぶりん(塚本高史)との、ヘアカットという名の逢瀬を満喫する。るんるん気分のカヨのところに、ふたばがやってきて、カヨとともに「夏の扉」(松田聖子)をワンフレーズ歌うサービスシーンを見せる。しかしその後ふたばは「火照ってるとこ悪いんだけど聞かせてくれるかな、復讐ノートのこと」と、ドスの利いた声で言い、カヨの金バッジを剥奪したのだった。

 板橋への復讐を計画していたことがバレたカヨは、独房へと閉じ込められた。そこでのふたばとカヨのやり合いは今週いちばんの見せ場だった。「雑魚でもおばさんでも正義はあるんです」と強く言うカヨに「今だけよ。雑魚がいきがって正義とか言ってられんのは今だけ。シャバに出たら我に返るよ。自分が可愛い。それが人間!」とふたばは言い放つ。

 その頃、勝田千夏(菅野美穂)、足立明美(森下愛子)、リン(江井エステファニー)が釈放となった。

“姉御”こと明美を迎えに来ていたのは、かつての組のメンバー(尾美としのり)であった。組長と復縁して組を立て直してくれ、と懇願する彼に、姉御は「悪いけど、約束があるの」と車を降り、去っていった。なんてカッコイイ後ろ姿なんだ……でもあんな田舎の道をどうやって帰ったんだろう。まあそれはいいとして、このシーンでの尾美としのりの派手な無駄遣いは見応えがあったし、エンドロールで、彼の役名が「若えの」と表示されていたのには笑った。

 千夏は民放各局に出演し、お詫び行脚をして回る。「お騒がせして申し訳ありませんでした」と頭を下げつつ舌を出す千夏のおちゃめさ、したたかさ、バカ笑いの豪快さは、菅野美穂の演技の新しい引き出しだ。そして2015年、テレビ局のエレベータで千夏と板橋は出会った。薄手のシャツ一枚で雨に濡れ、まさに水も滴るいい男の板橋に千夏は目をつける。まさか、マジ惚れ……?

 カヨの仮釈放にあたり、のぶりんは身柄引受人を申し出たが、しのぶ(夏帆)のために再び犯罪に手を染める決意をしているカヨはそれを断る。カヨは”のぶりん”と呼ぶのをやめて、真剣に言う。「長谷川さんはここにいるあたしが好きなの。法律の壁を越えて恋してる。国を相手取った不倫でしょ? 出たら冷めるの、忘れるの、我に返るの、それが人間!」。ふたばに言われた「それが人間」という言葉を繰り返したカヨの決意は固く、のぶりんはフラれてしまった。国を相手取った不倫……。不倫が世の中を席巻した2017年に響くパワーワードだった。

 カヨが釈放準備寮に入ると、そこには釈放前教育担当として、ふたばが待っていた。まるで年齢を逆転させての母と娘のように打ち解けて1週間を過ごしたふたばとカヨ。最後の夜、復讐ノートを返してほしいと頼むカヨに「先生としてじゃなく母親として渡せない。好きだから、もう会いたくないの。ごめん」とふたばは答える。悔しさ、嬉しさの入り交じった涙を浮かべながら夕飯を食べるカヨ。ああ、名シーンのはずなのに「泣きながらご飯食べたことある人は、生きていけます」というドラマ「カルテット」(TBS)での名台詞がよぎってしまう……。遊び心にもほどがある……。

 そして2017年、晴海とともに監禁現場に戻ってきた“先生”こと、ふたばが元女囚たちを抱きしめた時の笑顔には本物の母性を感じた。ふたばは彼女たちの本物の味方であることを信じたい、と心から思った。そしてふたばの号令のもと、クソ男オブザイヤー四冠王・板橋は再び縛り上げられる。長谷川の同僚検事、今池も合流し、いよいよ物語は第2章に突入だ。

 ……こうして長々と書いてみたものの、何が誰の本心なのか、分析するのもめんどうくさくなってきた。だって今何を分析したって全部ひっくり返されるかもしれないもん! だからこそ目が離せなくて、一瞬たりとも見逃すことができないのがこのドラマの最高の醍醐味なんだけれど!!

西野由季子(にしの・ゆきこ)(Twitter:@nishino_yukiko) フリーランサー。東京生まれ、ミッションスクール育ち、法学部卒。ITエンジニア10年、ライター3年、再びITエンジニアを経て、永遠の流れ者。実は現代演劇に詳しい。新たな時代に誘われて、批評・編集・インタビュー、華麗に活躍。

2017年12月12日掲載

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