久々に求めていた理想のドラマで大満足の「刑事ゆがみ」(TVふうーん録)

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 スマートでスタイリッシュな刑事や、特殊能力をもつ無礼な若手刑事が活躍する作品はよくある。脂ぎってヤニ臭く、安物の吊るしを着て靴底減らし、IT系が苦手なんていう「汚ッサン(汚れたオッサン)系」刑事は、もうオワコンなのね。いや、「小さな巨人」の安田顕が最初はそうだったかな。理想は「おとり捜査官・北見志穂」シリーズの蟹江敬三だけど。残念ながら主役にはならないのだ。

 が、久々にきたよ! 汚ッサン系デカが。浅野忠信が股上深めの非流行系ダークスーツと、無精にも程があるほどの無精ひげ。いい感じでビジュアルも捜査手法も汚れた刑事を演じている「刑事ゆがみ」だ。もらいタバコを耳にかける仕草も、相当貧乏くさくていい。

 オシャレ系刑事モノかと思ってたら、まったく違った。大丈夫。滑舌の悪い浅野の棒読み感も、この役ならばそんなに気にならない。なんといっても、相棒が手練(てだ)れの神木隆之介だから。

 子役の頃から抜群の演技力と透明感、芸能界における神童案件を我が物にしてきた神木が、使えない新人刑事を演じる。特殊能力はない。正義感はあるが、先入観もハンパない。一番ダメなパターンの新人を好演。童貞臭もきっちり携えとる。

 このコンビの、相反する性格と能力をきっちり見せるために、余計な群像劇にしていないところが潔い。

 最近の刑事ドラマは重鎮を投入しすぎて、暑苦しい。渋顔とドヤ感の大渋滞。メンバーが多すぎて、主役以外の個性をじっくり抽出できない構造も多い。ところが、浅野の職場は人員がシンプル。ドヤ感を抑えた仁科貴と人畜無害の橋本淳。超ミニマムな強行犯係である。いかにもテレビ局が入れ込みがちな、体育会系スニーカー刑事や、ヤクザ系顔面暴力刑事もいないのだ。

 しかも上司が稲森いずみ。独身を部下にいじられるという前近代的な立ち位置は舌打ちモノだが、劇中では最も男前。つまり、全体的に「事務所の権力や思惑によってお膳立てされた上っ面刑事モノ」ではないのだ。

 浅野の、適度に汚れた容貌と違法捜査に躊躇しない図太さ、走ると遅いわ格闘は弱いわの明白な体力低下、IT関連と紙仕事に疎(うと)くて使えない感じは、たぶん40代の憂いと諦観を誘う。

 神木の、小綺麗にまとめた身なりに伴わない中身の軽さ、口先だけは一人前の浅さ、有能な先輩に振り回される情けなさは、たぶん20代をがっかりさせる。いいと思う。若者をどんどんがっかりさせよう。たまには、若さが何のアドバンテージにもならない世界を描くべきだ。思てたんとちゃう現実も、時には必要だ。

 ついでに容疑者役も褒めそやしたい。1話の杉咲花、2話の水野美紀、5話の板谷由夏は、罪を犯すまでの経緯が興味深かったし、引き込まれた。女の犯罪だからかな。1時間枠に収めるのがもったいないと思うほど。そこだけは悔やまれる。

 凶悪事件とか下剋上とかやらんでいいから、地道に人の道を問う内容で継続希望。このバディの行く末をずっと観続けたいなぁと思った。今期一番の拾い物だ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年11月30日号掲載

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