中身がスカスカで原稿一回分も埋まらない篠原ドラマ「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~」(TVふうーん録)

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 フジテレビで10月7日に放送された土曜プレミアムがすごくよかった。「衝撃スクープSP 30年目の真実~東京・埼玉連続幼女誘拐殺人犯・宮崎勤の肉声」だ。宮崎勤の取り調べの実録音声と、当時の報道映像、そして俳優が演じるドラマパートを組み合わせた構成。宮崎を演じた俳優・坂本真が本人にかなり寄せていて、独特の風貌や挙動不審な眼球まで完璧に再現(取調室の実映像は観ていないが、かなり近似値と思われる)。

 対する刑事役の金子ノブアキも熱演。宮崎の父親を演じたダンカンも、なんというか肯定しがたい感じの人物を好演。2時間超えの番組だが、息を呑みながら観てしまった。フジテレビ、すごいじゃん!! これ「NHKスペシャル 未解決事件」に肉薄するレベルよ!

 感動していたらその翌日には「金正男暗殺事件の真相~北朝鮮・史上最大の兄弟ゲンカ全記録~」を放送。これまた興味深い内容だった。政治部の藤田水美記者が気が遠くなるほど長い時間をかけて交流していた正男の素顔に迫る番組で、これも秀逸だった。柔和でまっとうな正男がかの国の頭になっていれば、東アジアはもう少し平和だったのに。よその国を心配している場合じゃないね。日本も今は疑念と不安しかないし。

 ともあれ、フジテレビに拍手喝采をした秋の始まり。

 連ドラも私の好みの作品が多く、心はぐっと台場(とカンテレの大阪)方面に向いていたのだが。マクラがここまで長くなる時点でお気づきかと思うが、どう考えても褒める方向には行けない作品が。篠原涼子主演の月9「民衆の敵」である。

 もうこうなったらフジドラマの名物にするつもりなのかな? 「正義感と家族愛だけ過多、学と品の欠如を“がさつ”で表現する浅薄なヒロインが、なぜか表舞台で大暴れ」という設定を。周囲を巻き込んで、価値観を変えていくって……あれ、「セシルのもくろみ」と同じじゃん。セシっちゃってるじゃん。

 篠原は、夫の田中圭と揃って同時に職を失い、金目当てで市議会議員に立候補。「時給が低い! ステーキが食べたい! 幸せになりたい!」と、実にふんわりとした言葉と主張で問いかける篠原。「世の中、おかしくないですか?」と演説すれば、聴衆は最後必ず拍手喝采。見事に繰り上げ当選、議員生活スタートという初回を観て、唖然とした。

 私は子供がいないのでわからないが、子育て世代に響く内容とも到底思えない。

 今後の議員になってからの話が主軸だが、問題のある実在の政治家をなぞって終わるのかという嫌な予感しかしない。同じ市議役で、サラブレッドの高橋一生、元アイドルの前田敦子あたりに期待はしているのだが、篠原がやる気を出せば出すほど、空回りの破壊力でなぎ倒しそうな予感と悪寒。やる気、元気……あ、井脇ノブ子オマージュなのか?

 篠原を支援するママ友・石田ゆり子だけが心配。クライシスきてるよ。育児ストレスたまってるよ。心が病みかけてるよ。でも篠原はそれどころじゃないから気づかないだろうなぁ。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年11月9日神帰月増大号掲載

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