山口敬之の「韓国軍に慰安婦」捏造疑惑 根拠となった米公文書を“意図的に読み換え”?【検証2】

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慰安所という言葉はない

 公文書に精通し、近著に『こうして歴史問題は捏造される』(新潮新書)がある、有馬哲夫・早大社会科学部/大学院社会科学研究科教授は一連の資料を実際に現地で確認して、

「大多数はブラックマーケットに関する文書でした。当時、ベトナムにいたアメリカ軍を悩ませていたのは、兵士の薬物中毒と経済犯罪だったことが、他の文書からもわかりました」

 としたうえで、当該文書をこう解説する。

「このトルコ風呂経営者の言い分は“ウチのところは韓国軍専用なので基地の中と同じようにドルを使って兵士への支給品を売り買いしてもいいのだ”というものです。それに対して、米捜査官は“調べたが、韓国軍専用ではなく、一般向けの売春施設だ。だから韓国軍大佐が書類を作ってもサインしても、韓国軍専用だったという事実はない”と指摘しています」 

 山口記事は、〈押収資料の中から、韓国兵の福利厚生を担当する特務部次長(註:「福利厚生を担当する特務部次長」についてのウェブ取材班訳は「特別サービス補佐官」)の任にあった韓国軍大佐の署名入りの書類が見つかり、その書類に韓国軍による韓国兵専用の慰安所であると示されている事〉が韓国の慰安所と指摘された根拠の1つだとする。

「公文書全文を読んでも慰安所(Military Brothels)や慰安婦(Comfort Women/Military Prostitutes)という言葉が出てきません。トルコ風呂(Turkish Bath)や韓国軍福利センター(a Republic of Korea Army Welfare Center)を慰安所と、単なる売春婦(prostitutes)を慰安婦と言い換えてしまっています」(同)

 そうすると分かるのは、

「この公文書は、①アメリカ軍の物資が勝手に売り捌かれていたり、その取引にドルが不正に使われていたりしたという経済犯罪の捜査に関連したものであり、②捜査に関連して、ベトナム税関当局が不正取引の温床になっている『トルコ風呂』を捜索したことがわかる米軍当局の文書(韓国軍幹部に宛てた手紙)だということです。確かに、文書にはその施設で売春が行なわれていた記述はあります。しかし問題となるのは、それが慰安所なのか一般の売春宿(と変わらないもの)なのかという点です」(同)

 繰り返すが、公文書には慰安所という言葉はない。

「慰安所という言葉を使うのであれば、その施設に軍医や憲兵がいるなど、きちんと軍が運営管理していた実態を把握する必要があります。しかし、公文書からはそうした事実は読み取れません。逆に一般に開かれた施設であることを文書は証明しているので、軍事売春所、つまり山口氏の読み換えた慰安所ということも完全に否定されます。一般大衆に開かれていては性病予防が徹底できず軍用にふさわしくない。文書にそうあり、その要旨からもあり得ないのに、山口氏は故意に無視しており、捏造と言われても仕方がないでしょう。旧日本軍の場合、慰安所の管理体制を示す資料がありますが、この公文書にはそうしたものは何もないのです」(同)

 山口氏は韓国軍の関与について、文書の前半の〈韓国軍のみに便益を提供する〉という部分を論拠に挙げている。しかし、

「その後の文章で“そのトルコ風呂は韓国駐屯軍のみの便益のために営業していたわけではない”“大衆にもサービスを提供する一般に開かれた施設である”と記されている通り、公文書は施設が韓国兵専用であったことを否定しているのです」(同)

 煎じ詰めると、トルコ風呂が売春宿としても利用されていたことは確かだが、公文書からはそれが韓国兵専用であったとは読み取れないし、仮に韓国兵専用の売春宿であったとしても軍が施設を運営管理した事実が記されていない。従って、

「この公文書から“韓国軍の慰安所がベトナムにあった”という事実を導くことはできません」(同)

 と結論付けるのだった。

(3)へつづく

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週刊新潮WEB取材班

2017年10月31日掲載

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