芸人と役者、お互いを生かすか殺すかのバトルを見られる「笑×演」(TVふうーん録)

  • ブックマーク

Advertisement

 芸人のネタ番組を観なくなった。昔は「あらびき団」を喜々として観ていたのに。あのどうしようもないポンコツ感が愛おしかった。今は年1回の「キングオブコント」や「M-1グランプリ」などで満足してしまう。

 と書きながらも、ひとつだけ熱心に追いかけている番組がある。芸人が書いたコントや漫才を役者が演じる「笑×演(ワラエン)」(テレ朝)だ。

 今年1月に特番が放映され、「これ、面白そう。面白い試みなんだけど決して成功はしていない。惜しい」とメモに書いてある。

 そして3月に再び放送されたとき、虜になった。ハライチ岩井のネタを演じた迫田孝也(中島敦「山月記」をモチーフにしたシュールな言霊(ことだま)&リズムネタ)と、役者魂を見せつけた西尾まり(ニッチェのネタで、遠足を待ちわびる狂気の子供を演じた)のせいである。その後レギュラー化したので、毎週予約録画している。

 正直、すべてが面白いとは言い難い。びっくりするほどつまらないネタで、役者がほぼ公開処刑状態になる回もある(金子昇はなぜか毎回悲惨な目に遭う)。

 逆に、役者の方が漫才のリズムをつかみきれず、せっかくのネタがグダグダになるケースもある(滑舌の悪い年輩の役者には厳しい傾向が)。さらに、大御所の役者がまさかのセリフ度忘れというハプニングもある(田中健は猛省すべし)。

 最近ではスタジオを出て、コントロケを敢行したり、5人の役者で大所帯コントに挑戦するなど番組自体の土台に活気があると感じる。

 ネタが明らかに空回りし、スタジオ内が冷えても、MCのバカリズムと山崎弘也が珠玉の一言で救済するという互助システムも稼働。時に真綿の如く優しく高齢役者を包み込み、時に調子に乗っている役者に致命傷を与える凶器と化す。観ていてモヤッとした蟹江一平を「絶妙に好かれない」と評したときは膝を打ったよ。

 ずっと観続けている割に、原稿を書く機会を逸していた。が、先日大好きな西尾まりが再び登場したので、書いておこうと思った次第。

 そういえば、西尾は昔TBS系で放映していた「鶴瓶のスジナシ」という番組に出演したときも、群を抜いて秀逸だった。ゲストは笑福亭鶴瓶とアドリブ芝居をするのだが、鶴瓶はいつも相手を自分の筋書きへと強制誘導する悪癖があった。しかし、西尾は奇抜な発想と演技力、そして咄嗟の判断で機転を利かせ、明らかに鶴瓶を巻き込み返したのだ。

 そもそも彼女は子役の頃から演技派だ。「うちの子にかぎって…」や「パパはニュースキャスター」を懐かしく思う。コントに真摯(しんし)に取り組む西尾の姿に、自分も人生を振り返る気分に。

 しまった、西尾だけで原稿が終わっちゃう。他に好きだったのは、原扶貴子・尾上寛之×アルコ&ピース、浅利陽介・柳喬之×磁石(漫才の中で一番笑えた)、円城寺あや・宅間孝行×ラバーガール(芸人から役者への挑戦状とも)、東風万智子・雛形あきこ×鳥居みゆきだ。笑えるという観点だけでなく、役者のポテンシャルが活きるか否かも重要。しつこく観続けていきたい。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年10月19日号掲載

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。