故・羽田孜元首相の義弟が語る「省エネスーツ」と「小選挙区制」の思い出

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筋金入りの小選挙区制論者に

 89年、海部俊樹内閣が発足すると、“盟友”小沢一郎氏は自民党幹事長に就任。羽田元首相は党選挙制度調査会長の就任を求められ、これを受諾する。

 当時の国政選挙は中選挙区制。1つの選挙区から複数の議員が当選する方式は、いわゆる死に票が少なく、多様な世論を背景とした代表者を生むメリットがある。逆に政権与党であっても複数の立候補者を準備しなければならず、「同士討ち」は無駄なコストを生み、支持基盤を求めて特定業種への利益誘導──いわゆる「政治とカネ」の問題――を引き起こす危険性が指摘されている。

 逆に現在の小選挙区制は、1つの選挙区から基本的には1人の議員が選ばれる。死に票が多く、有権者は候補者より政党を選ぶ。多様な世論を反映させにくいが、当選後の国会で与党の意思決定スピードは増す。また本質的には「カネの要らない選挙」だ。

 そして羽田元首相は、政界でも突出した小選挙区制・二大政党制論者となる。故・金丸信・元自民党副総裁は「熱病にうかされている」と評したという。小選挙区制の実現に向け、全国で選挙制度改革の必要性を「辻説法」したというのだから、どれだけの情熱を傾けたかが分かる。

 この頃、渡邊会長は、戦前の高級官僚で、戦後はサンケイ新聞の論説主幹、日本工業新聞の社長などを歴任した故・稲葉秀三氏から、羽田元首相に関する“愚痴”を聞かされている。

「稲葉さんが『たった今、羽田から逃げてきた』と言うんですよ。稲葉さんによると、そもそも羽田さんが選挙制度の担当になったのは、党幹部が『羽田なら小選挙区制を嫌がるだろう』と目論んでいたからだそうなんです。ところが羽田さんは筋金入りの小選挙区論者になってしまった」

 羽田元首相は稲葉氏に「今の日本は息づまっている。狂犬的な政治家が出てきてもおかしくない。それを防ぐためには小選挙区制しかない。これまでの中選挙区制は選挙区を想う政治家を生んできた。それを小選挙区制に変えて、世界を想う政治家を国会に送るんだ」と力説。稲葉氏が論破されそうになり、渡邊会長の元に逃げてきたというわけだ。

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