毒蛇に素手で挑んだ「ヤマカガシ少年」 大人たちの郷愁を誘う逞しさ

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カナヘビを素手で…

 カブトムシはデパートに住んでいる――そう信じている子どもすら増えている昨今だ。2人の「ヘビ扱い」のあまりの無防備さには目を吊り上げざるを得ないが、一方で、ヘビを飼いたいと自ら採集に挑む、その逞しさにはつい頭でも撫でてみたくなる。

「あの2人は、小学校でもとても有名ですよ」

 と言うのは、彼らと同学年の女子である。

「とにかく虫が好きで、よくトカゲとかヤモリをジャーンと見せ合ってます」

 彼の一級下の後輩少年も言葉を継ぐ。

「2人とも、塾には行っていないのに勉強は出来る。でも、とにかく生き物が好きですね。カナヘビとか、トカゲ、ヤモリなんかを捕まえて飼っています。カナヘビなんかは、温かい土と冷たい土を混ぜて飼ったりめっちゃ詳しいですね。クラスは別々だけど、いつも一緒で虫のことを話しています。小学校でカナヘビを素手で捕まえられるのは2人だけ。カナヘビは後ろから音を立てると、振り向く。その瞬間にもう1人が首ねっこを掴むというやり方を開発したのです。ヤモリもそう。近所の神社によくいるのですが、前進しか出来ない。前に網を置いておいて、後ろからトントンと音を立てると、網に吸い込まれる、と教えてくれました」

 とはいえ、双方のご両親、きょうだい共に特に虫好きというワケでもないそうだから、2人で興じている間に、「虫熱」がどんどん高まってしまったということか。

 そんな「昆虫博士」コンビは、虫だけでなく、時に近所で「ピンポンダッシュ」を楽しむなど、イタズラ仲間でもあるとか。しかし、

「実は『少年』は少し前、学校生活で悩んでいた。それを『友人』が朝、家に迎えに行き、一緒に登校してあげるなど、支えてくれていたんです」(学校関係者)

 ヤマカガシ事件の裏には、意外な“友情”も。友情と冒険、そして「夏」と言えば、『トム・ソーヤーの冒険』、あるいは、『スタンド・バイ・ミー』を思い出す……。

「今の世の中“危ないものは動物園に行って見なさい”っていう雰囲気でしょ」

 事の顛末を聞いて、そう嘆息するのは、作家の安部譲二氏(80)である。

「マムシでもハブでもガラス越しに見てればいいという考え方。危ない危ないというだけで、じゃあこうしなさいっていうのがないから、芯がなくなっちゃうんだよ。ヘビに咬まれたことがこれだけニュースになること自体、おかしいよね」

 前出・矢口氏もこう述べるのだ。

「少年たちが自然を舐めすぎていたのは事実。でも、それは周りに手本を見せてくれる大人がいなかったということでしょう。今時、大人でもヘビに触れないという人はたくさんいます。そんな中で今回のような少年たちは非常に珍しいし、その冒険心については評価しますよ。これで、世の中のお母さんたちがますます外に出ちゃダメと言うようになったら残念ですよね。こうした学びは、知識じゃなくて、経験として自分に染み付いていくものだから」

 傷の痛みは大きかった。そして何より怖かった。

 しかし、そんな体験はクーラーの効いた夏期講習の教室では決して得られない。「ヤマカガシ少年」、大人への“脱皮”への大きな“ひと夏”となりそうなのである。

週刊新潮 2017年8月17・24日夏季特大号掲載

特集「今どき逞しく育った『ヤマカガシ少年』」より

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