中村勘三郎、周富徳…遺族が明かした難病「誤嚥性肺炎」の恐怖

ドクター新潮 医療 肺炎

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 戦慄の病魔に蝕まれ、命を落とした著名人は少なくない。残された家族は、では不条理な日々といかに向き合ってきたのか――。

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難病「誤嚥性肺炎」の恐怖(写真はイメージ)

 ものを食べる時、通常は気管が自動的に閉じる仕組みになっている。この反射的な働きが「嚥下(えんげ)」であり、誤って食物が入り込んでも「咳反射」、つまりむせたり咳き込んだりすることで排出され、事なきを得る。

 が、老化に伴って反射神経や筋肉が衰え、あるいは脳疾患などを抱えると、このメカニズムが上手く機能せずに誤嚥を引き起こし、ひいては無菌状態の肺の中で雑菌が増殖、誤嚥性肺炎を発症してしまうのだ。

 例えば2012年12月に亡くなった中村勘三郎(57)=享年、以下同=。同年6月に食道がんを告知され、手術は成功したものの、8月には誤嚥性肺炎にかかってARDS(急性呼吸促迫症候群)を発症、回復は叶わなかった。闘病中の様子を、妻の好江さんは手記『中村勘三郎 最期の131日』(集英社)で、以下のように綴っている。

〈八月二日は、夫が楽しみにしていた一般病棟に移れる日でした。ところが(略)先生がすでにいらしてました。/「今朝方、ご主人が誤嚥(ごえん)しまして、肺がダメージを受け、肺炎になりました」〉

 妻は同日、親交のある大竹しのぶにメールを送った。

〈逆流を起こしてしまいました。口から内視鏡と吸引の管を肺に入れて誤嚥した胃液を吸引したのですが(略)呼吸もちゃんとできなくなってきてしまいました。熱は四十度あります。(略)哲さん(注・勘三郎)は「苦しいし、痛い吸引をまたやるのは嫌だから、人工呼吸器を着けてくれ」なんて訴えています〉

 転院した8月10日には、

〈すぐに肺のエックス線検査が行われましたが、夫の肺には大量に水がたまっていて、真っ白でした。先生の説明は、ARDS患者の生存率は三〇から五〇%、と大変厳しいものでした〉

 さらに、死の1カ月前。

〈十一月五日のCT検査で、哲明さんの肺は繊維化して、固く縮小してしまっていることがわかりました。(略)/このときの先生の説明で、私は八月二日の嘔吐による誤嚥の際、大量の胆汁が肺に入ってしまったということを初めて認識しました〉

 結果、肺は「燃えた状態」になったと記されている。

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