主役と本筋を無視すれば面白い恋愛ファンタジー(TVふうーん録)

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 気持ちよかったり、心が高まったりすると、赤いキノコがニョキッと生えてくる。心が汚れた人間からすれば、そのビジュアルに作為と大人の暗喩を感じてしまう。でも、中身は無垢な心の男女が運命に導かれ、惹かれ合う物語。日テレの恋愛ファンタジー「フランケンシュタインの恋」だ。

 初回、二階堂ふみが男たちに酒を飲まされ、レイプされかけるという胸糞悪いシーンから始まり、ちょっとだけ心が挫けてしまった。

 二階堂を助けるのが、山中で120年も生きてきた怪物・綾野剛。人間界を知らない役柄とはいえ、キョトンとした「かわいこぶりっこ」に違和感。小首かしげて微笑んだり、目をパチクリさせて上目遣いする綾野。さらに、初回はキレッキレ筋肉の全裸をお披露目。綾野ファンは垂涎(すいぜん)。そうでない人は、ちょっと鳥肌。

 綾野は怪物というよりは、植物、いや菌糸類に近い生き物。食べたモノが翌日布団に生えてくるエコな体質。プラスの感情が高ぶると、首にある左右の穴から赤いキノコがポコンと屹立(きつりつ)。マイナスの感情が高ぶると、白色キノコが鱗のように生えてくる。触れると相手の命を奪うこともできる恐ろしい力も持っている。

 キノコびっしりのビジュアルが気持ち悪い人には正直キツイ。ところがだな、意外と慣れてくる。綾野にもキノコにも。さらには綾野と二階堂の純愛ファンタジー以外に目を向けると、俄然面白くなってくるのだ。

(C)吉田潮

 二階堂に思いを寄せる先輩・柳楽優弥には、徐々に嫉妬と無意識の謀略が芽生え始めている。むしろ柳楽のほうが、この後怪物となるのではないか。前半はしおらしく控えめだが、後半に感情の爆発と責任転嫁が起こると推測しちゃうね。

 綾野が住み込みで働く柳楽の実家(父・光石研が営む工務店)も、歯の浮く純愛要素をスコーンと笑い飛ばせる「お茶の間喜劇」に仕上がっている。過去のある人間に優しく、無駄に話が長い上に論点がずれ、ゆるふわな格言が大好きな光石。恩人である光石に悪態をつくも、柳楽に恋するガラッパチ乙女の川栄李奈。

 男所帯の家事を切り盛りするのは、無駄に色気、地味に器用な大西礼芳。金持ち爺の妻でありながら、彼女の謎の秋波が全方位に向かうのも面白い。声も雰囲気も目立たない色香も、後妻感が抜群だ。大西が綾野の布団をチェックするシーンが大好き。ちょっと邪(よこしま)でちょっと淫靡。この工務店シーンが私の好物なのだ。

 もうひとり、綾野が好きなラジオレポーター・天草を演じるのが新井浩文。リスナーの悩みを独自の手法で解決するが、怪物・綾野に「人としての成長の糧」を与える重要な役でもある。

 汚れた大人社会の裏表と機微を無垢な者に教えることの難しさ。そうか、これはオサレ教育系、Eテレなのだ、と考えればファンタジーもすんなり飲み込める。

 でも結末はきっちり描いてほしい。怪物に対する人間のえげつない手のひら返しと差別を。報われない嘆きと絶望を。どうせ悲劇にするならば突き詰めてほしいよね、人間の愚かさを。

吉田潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビ番組はほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2017年6月8日号掲載

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