厚労省発表の「ブラック企業リスト」だけじゃない! 就活生が見るべきもう一つの「リスト」

仕事術2017年5月15日掲載

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慎重で賢明な判断を

 就活シーズン真っ只中の5月10日、厚生労働省が、長時間労働や賃金不払いなど労働関係法令に違反した疑いで送検された企業の一覧を公式サイトで公開した。

 どの企業が良いか、真剣に悩む学生の中には、一種の「ブラック企業リスト」として役立てる人もいるかもしれない。掲載企業数は334社に及び、中には新入社員に違法な時間外労働を課し、過労で自殺したことが問題となった広告代理店最大手の「電通」の名も。リストは今後毎月更新され、掲載期間は約1年間。改善が認められた場合には速やかに削除されると言う。

 やはり就職をするならば、「ブラック企業」は出来るだけ避けたいと思うのが常識的な感覚だろうから、リストに掲載されることは企業にとって痛手となるはずだ。しかし上記リストはあくまで送検された企業のリストなので、実際には氷山の一角にすぎないという意見もある。ではこのリスト以外に「ブラック企業」を見抜く手立てはないのか。『キレイゴトぬきの就活論』(石渡嶺司・著)によると、公開情報で見抜ける場合もあるという(以下同書より抜粋、引用)。

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■倒産のシグナルが灯っている

 ブラック企業という際に、学生によっては、倒産寸前の企業を含めて考えている者もいる。確かに一応、指標があるから、借金をどの程度していて、その企業にどの程度の資産があるかを見れば、ある程度、倒産の危機があるかどうかはわかる。

■倒産のシグナルが灯っている

 借金をすれば利子が付く。当たり前だ。利子付きの借金が多いようであれば、企業経営としては不健全であり、倒産のシグナルが灯っている、とも言える。

 経営コンサルタント・小宮一慶の『プレジデントオンライン』2009年12月17日記事「倒産に至る道:JALとダイエーの共通点」では、財務状況を示す数値として、自己資本比率、流動比率、当座比率を挙げている。

「純資産の合計を、資産で割った数字を自己資本比率といいます。資産を賄っている資金のうち、返済する必要のない資金の比率のことで、会社の中長期的な安全性を表す代表的な指標です。(日本航空は)2008年3月末には、22・2%あったこの数字が、2009年3月末には11・2%と、ほぼ半減しています。私の経験上では、製造業など固定資産を多く使う企業では20%、商社など流動資産を多く使う企業は15%が最低ラインです。どんな業種でも10%を切ると危ない。この数字がマイナスになると債務超過に陥るわけです」

「企業が倒産するのは、流動負債(1年以内に返済する義務がある負債)を返済できなくなる場合が最も多いのです。流動資産(現金や預金、売掛金、棚卸資産=在庫など)を流動負債で割った数字が流動比率で、一般的には120%以上が望ましいといわれています」

「当座比率は流動比率同様、企業の短期的な安全性を見る指標です。流動資産のなかでもとくに現金化しやすい当座資産(現預金、売掛金、有価証券)を当座負債で割って計算します。一般的には90%以上が安全とされます」

 同記事で、比較材料の優良企業として挙げているのが、トヨタと花王である。小宮の指摘する通り、日本航空の自己資本比率は経営破綻前、かなり低い。2008年度には22・2%だったが、2009年度には11・2%とほぼ半減してしまう。2009年度には花王が53・0%。トヨタは34・6%あった。それを考えれば、低空飛行だった、と言わざるを得ない。

 他の指標も押しなべてよくない。流動比率、当座比率もそれぞれ落としていた。それでも、2009年の就職人気ランキングでは文系で5位にランクインしている(マイナビ調べ)。
 経済指標だけでなく、日本航空については、ネガティブなニュースが散々流れていたにもかかわらず、当時の学生の多くは破綻の足音に気づいていなかったということになる

■無借金経営の企業は利益拡大のチャンスを逃している?

 ここまで読んで、「借金が少ないほうがいいんですね」と早とちりする学生もいるかもしれないので、少し補足しておく。借金は無いに越したことはない、というのが一般的な常識ではあるが、企業が設備投資のために借金をするのは当然のことだ。

 もちろん、無借金経営を売りとする企業も存在している。確かに経営が堅実であり、倒産リスクは低い。が、無借金経営、ないし、借金が少なければいいか、と言えばそうとも言い切れないのだ。

「無借金経営と言えば聞こえはいいのですけどねえ」と、懐疑的に話すのは、大阪の食品メーカーで採用を担当している大川始さん。前職が就職情報会社であり、業務外で出身校の香川大や関西圏の大学生への就職支援にもかかわっている。独自の企業研究を続けてきた経験から、無借金経営について「個人的な偏見かもしれませんが」と断りながらこう話す。

「無借金経営の企業は堅実な経営をしています。だから、倒産リスクは低いでしょう。ただし、借金をするリスクを取らない、ということは、それだけ保守的で腰が重い、とも言えます。倒産するリスクが低い代わりに、利益を拡大する機会を失っている、それにすら気づいていないかもしれません。だから、無借金経営の企業がすべて善で、学生にとっていい企業、とは言い切れないはずです」

 つまり、無借金企業の場合、当面は倒産の危機はないかもしれないが、市場が激変した場合などに対応できないリスクを負っている可能性はあるのだ。

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 実のところ、誰もが「ブラック」という企業の中にも「これこそ俺の天職!」と働いている人がいるケースも珍しくはない。明らかに財務がヤバい企業は論外にしても、学生諸君には有名企業や大手企業という表面的な情報だけに惑わされず、慎重で賢明な判断をしていただきたい。

デイリー新潮編集部