他人事ではなかった介護殺人の恐怖 「橋幸夫」認知症の母との6年間

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■うちの親に限って…

〈介護疲れか 妻絞殺容疑84歳逮捕〉(3月2日付読売新聞)

〈妻殺害し自殺の容疑者/介護していた妻の首を絞めて殺害したとして……〉(2月4日付毎日新聞)

 新聞紙面を飾る機会が増えている「介護殺人」。天皇陛下の生前退位が現実味を帯び、平成の元号が使われるのも残りわずかと見られている「新時代」到来間近の今、介護殺人は「日常化」しつつある。なにしろ、

〈高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が2013年以降、全国で少なくとも179件発生し、189人が死亡〉(16年12月5日付読売新聞)

 というのである。1月31日の参院予算委員会では、塩崎恭久厚労相が、

「国として死亡事案(介護殺人や心中)の分析を新たに実施する」

「分析結果を自治体に周知することで未然防止に取り組みたい」

 こう言及したほど、社会問題化しているのだ。

 無論、いくら「介護」という枕詞(まくらことば)がついたところで、殺人は殺人であり、認められるべきものではない。しかし一方で、この問題が超高齢社会の日本の現実であることも間違いがない。「うちの親に限って」、「自分に限って」ボケるはずがない、動けなくなるはずがないと能天気に言いきることは、もはや誰にも叶わない時代なのである。

 その深刻さは、昨年11月、小社が『介護殺人─追いつめられた家族の告白』(毎日新聞大阪社会部取材班著)を刊行した際の反響にも表れている。同書は、冒頭で紹介した女性をはじめとする介護殺人に手を染めた、あえて言えば染めざるを得なかった複数の当事者や、それを防げなかったケアマネージャーなどの声を毎日新聞の取材班が丹念に取材してまとめたものだが、

「『デイリー新潮』に本の一部を紹介する記事を掲載したところ、『決して他人事ではない』『私の近くでも似たような事件があった』といったコメントが、多い時で3500件も寄せられました。これはデイリー新潮開始以来最大級の記録で、『介護殺人』は発売直後に増刷しています」(担当編集者)

 これほどの「波及力」を誇る、介護殺人という平成日本の現実。そして同書は、一般の読者に留まらず、介護を体験した少なからぬ著名人にも衝撃を与えるとともに、誤解を恐れずに言えば共感を呼んだのだった。

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