厚労相も口を挟む「電通過労自殺」国策捜査の消えない違和感

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電通本社

 もはや、一企業に向けられた労働基準法違反の捜査とは思えないほど。電通過労自殺問題は厚労相の大号令によって、「長時間労働=絶対悪」とばかりに、“国策捜査”に発展しかねない様相だ。だが、そこには、どうにも消えない違和感が付き纏うのである。

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 電通の新入社員だった高橋まつりさん(24)が自殺を図ってから、ほぼ1年が経った昨年12月28日。母親の幸美さん(54)による労災申請という“叫び”で明るみに出た事件は、法人としての電通と彼女の上司が書類送検され、社長も引責辞任する事態となった。

 司法担当記者が言う。

「本来は、東京本社と同時に強制捜査に入った他の支社の調べが終わってから、送検するのが通常です。今回、異例中の異例で、労働局は高橋さんの件を含めた東京本社の分だけ先行して送検した。しかも、当日は御用納めの日です」

 早急に結果を出したいという厚労省の考えが透けて見えそうだが、それは、年明け早々、閣議後に発せられた塩崎恭久厚労相による次の発言で、意味するものが明らかとなるのだ。

「社長一人の引責辞任で済む話ではない。社会的な注目度と重大性を踏まえ、粛々と捜査を続けていく」

 その真意を官邸関係者が解説する。

「まつりさんの事件は、今まさに、官邸が推し進めている『働き方改革』や『女性の活躍推進』に逆行するもの。厚労省は官邸の顔色を見て、厳しい態度で臨むべくいち早く動いた。現在、検察は難色を示していますが、いずれ本腰を入れることになるでしょう。つまり、国策捜査というわけです」

 社長の辞任で大逆風が一段落すると見ていた電通は、アテがはずれ、戦々恐々に違いない。なぜなら、

「通常であれば、書類送検の結果、法人は略式起訴で罰金、個人にいたっては、不起訴かせいぜい起訴猶予です。1月20日に、電通が彼女の母親と再発防止の合意書を交わしたのもキズを浅くするためでしょうけど、国策となると話が別。在宅起訴の可能性も十分、考えられます」(先の司法記者)

 だが、しかし、である。

■前日の破局

 電通が違法な残業をさせていたのは紛れもない事実とはいえ、「NO残業」の大合唱で後押しするメディアの下、本来の処分を飛び越えた結論を出すことが正当化されていいはずがない。

 厚労省担当記者の話。

「残業が彼女を殺したことになっていますが、それだけではないと思います。彼女の場合、母親に楽をさせたいという思いが強く、退社という選択肢がなかったことも影響しているのではないでしょうか。さらに言えば、メディアは伏せていますが、亡くなる前日に彼氏と破局したことも、タイミングからして原因の一つと見るのが普通では……」

 元電通の女性社員で、人気ブロガー・作家、はあちゅうさんが言う。

「痛ましい事件ですが、働き方は人それぞれで、仕事が人生の人だっています。それを認めたうえで、効率化を議論する展開になればと思っていました。ところが、残業は悪と決めつけ、労働時間だけを短くしようとする。残業代ベースの給与構造、顧客の無茶ぶりなど、様々なアプローチがないと、社員の苦しさに罪悪感がプラスされるだけです。電通は仕事好きが多いから、ブレーキが利かないことも確かにあります。でも、その価値観は蔑ろにされるべきではないし、そう簡単に変わらない。時間をかけた取り組みが必要です」

 どうする安倍総理!

ワイド特集「女という商売」より

週刊新潮 2017年2月16日梅見月増大号掲載

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