“俳優志望”だった新芥川賞作家「山下澄人さん」の作法

文芸・マンガ週刊新潮 2017年2月2日号掲載

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山下澄人さん

 これまでの受賞作家の中でも異色の経歴だという。1月19日、第156回芥川賞に山下澄人さんの『しんせかい』(新潮7月号) が選ばれた。

 山下さんは兵庫県神戸市出身の51歳。神戸市内の高校を卒業後、脚本家の倉本聰氏が主宰する「富良野塾」の2期生として門を叩く。担当編集者が言う。

「ブルース・リーや高倉健になりたくて、もともとは俳優志望だったそうです」

 1996年には自身の劇団「FICTION」を立ち上げたのだが、意外な転機が訪れる。

「演劇畑の山下さんが小説を書くきっかけになったのは、劇場に見に来ていた平凡社の営業部の方が“書きませんか”と声をかけてきたことでした」(同)

 2012年、平凡社から出版した『緑のさる』で野間文芸新人賞を受賞し、注目を集める存在に。芥川賞候補は今回で4度目だった。

 本作は、主人公のスミトが北海道の演劇塾で過ごす日々を描く。倉本氏との体験を彷彿とさせ、言わば著者の原点を描いたもの。

 選考委員の吉田修一氏からも“コミュニケーションがうまくいかないということも含めた、王道の青春小説としての面白さがある”と評された。この作品は、どうやって生まれたのか。

「呼吸するように書く」

 と担当者が話すように、実は一風変わった“作法”を持っている。

「執筆は基本的にiPhoneのメモ帳。電車の中やこたつで寝ころびながら書けますし、書いている時とそうでない時の意識をフラットに保ちたい、と」(同)

 さらに、

「文章を書く時に、格闘家のボブ・サップを思い出すことがあるそうです。彼は、格闘素人なのに、圧倒的な身体能力で勝ってきた。でも小手先の技術を身につけた時から、負け始める。それと同じになってはならない、“馬鹿”であり続けなければ、と考えていらっしゃるようです」(同)

 受賞作は原稿用紙換算で160枚の中編だ――。