“申酉騒ぐ”―― 超円安なら実質給与低下、円高なら日経平均急降下

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〈日はまた昇る 日経平均は「4万円」!〉〈8月に2万5000円超え「上げ相場に備えよ」〉――年末年始の週刊誌には、威勢の良い今年の株価予想が並んだ。冷静なはずの新聞各紙でさえ、「2万円台」を予測する社もある。しかし世の中そんなに甘くない。今年も日本経済には、落とし穴がそこかしこにいっぱいなのだ。

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今年はどうなる

 楽観論の背景には、トランプ当選以降の急激な円安、株高基調がある。11月の頭まで1ドル105円前後、1万6000〜7000円台だった株価は、選挙後それぞれ117円、1万9000円台にまで“回復”した。

 しかし、

「このまま一本調子で同じ流れが続くと考えるのは短絡的すぎます」

 と、ファイナンシャルプランナーの深野康彦氏は言う。

「現在の円安と株価上昇は『トランプ市場』。彼が選挙期間中に掲げていた、10年間で1兆ドルの公共事業とか、6兆ドルの減税、法人税の一時的な引き下げなどの政策への“期待感”だけでドルが買われ、円安が進んでいる。逆に言えばそれ以上の根拠はありません。直近で怖いのは1月20日。大統領就任式の演説でこれがトーンダウンすれば、一気に下落基調に転じる。政策が実行されないことがわかった場合、期待が大きかっただけに、為替は1ドル100円程度の円高、株価も日を追うごとに下がり、1万5000円台に落ちることも覚悟すべきです」

 円安株高の夢は、儚く1月の「初夢」の幻と消えてしまうかもしれないのだ。

 また、

「今年は、ヨーロッパの情勢も不安定極まりない」

 とは、シグマ・キャピタルのチーフエコノミスト・田代秀敏氏である。

 欧州では、3月にオランダ総選挙、4〜5月にはフランス大統領選、9月にはドイツで連邦議会選挙が行われる予定。とりわけルペン女史が挑むフランス大統領選は注目されている。

「これらで右派勢力が勝利した場合、昨年のイギリスに続く離脱候補になり、EUは崩壊の危機に立たされます。こうした地政学的リスクが起きると、投機筋はハイリスクな取引を手仕舞いし、調達していた円を返却するため、大幅な円高が引き起されるのです」

 昨年のBREXIT(ブレグジット)の際、円が対ドルで100円割れの高値に振れ、株価も1万4000円台に下がったことは記憶に新しいが、その悪夢がもう一度起らないとも限らないというワケだ。

■原油高騰

 そもそも、である。

 仮にこれらの海外発のリスクが起らず、為替が超円安に振れるにしても、気がかりなシナリオはある。

 元日銀金融研究所長の三宅純一氏によれば、

「円安が進めば、輸入価格が上がり、物価も上昇する。加えて注目すべきはここ数カ月、原油価格が高騰していることです。賃金も上がっていない上に、円安と資源高が同時に進めば、実質的な所得は減となります」

 これでは、いくら円安で株価が上がっても、“バブル”に過ぎず、すなわち、

「消費は冷え込み、国内経済には大きなマイナス。アベノミクスの目標達成が困難になる」(城西大学現代政策学部の霧島和孝教授)

 相場格言に「申酉騒ぐ」という。昨年同様、値動きの荒そうなこの1年。「甘言雑言」に迷うことのないよう、心しておきたいものである。

特集「日本が頭を抱える4つの最悪シナリオ2017」より

週刊新潮 2017年1月12日号掲載

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