豊洲市場の地下水、ミネラルウォーターならOK? 高すぎる安全基準

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 小池百合子東京都知事が移転に“待った”をかけたことで、豊洲新市場にまつわる報道は加熱した。なかでも有害物質の検出は、危険性を煽るに充分な材料になった。

 こうした風潮に、〈豊洲市場にいったいどこまでの清潔さを求める気なのだろうか〉と問うのは、サイエンスライターの佐藤健太郎氏だ。「新潮45」11月号に、「豊洲市場に『ゼロリスク』を求めるな」を寄せている。※〈〉は本文より引用、以下同

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 市場の安全性を問う騒動に拍車をかけたのは、9月29日に東京都が発表した“基準値超え”のベンゼンやヒ素の存在だった。一見するとこの事実は、食品を扱う場所には相応しくない印象を与える。佐藤氏自身、

〈「基準値を満たしているからOK」といったことでなく、できる限り汚染物質をゼロにすべきだと思いたくなるのももっともではある〉

 と語るが、一方で、必要以上の安全追求に疑問を投げかける。

■「基準値」への誤解

 一人歩きする「基準値」という言葉について、佐藤氏はこう解説する。

〈基準値は、「この水準を超えたら即危険が発生する」というラインではない。

 たとえば道路の先に崖があった時、直前に「崖あり」の案内看板を設置しておくのではブレーキが間に合わない。転落事故を防ぐなら、もっと手前から何度も警告の標示を出しておくべきだろう〉

 食品や飲料水に定められている基準値も同じだ。動物実験によって一生涯の間毎日摂取し続けても毒性の出ない「無毒性量」が決められ、かつ、人間には動物の無毒性量の100分の1が基準値として採用されているという。

〈毎日、一生涯食べ続けても大丈夫な量のさらに100分の1だから、いかに安全側に振った基準であるかわかるだろう(略)危険が発生するはるか手前でブレーキをかけ、対策を打てるように、安全管理はなされている〉

■ミネラルウォーターにしても大丈夫

 驚くのは、水道水に要求される安全基準の例だ。重金属の含有量など、水道水の満たすべき基準項目数はミネラルウォーターよりも多い上、

〈数値自体も、たとえば鉛やヒ素などに関しては、水道水の方がミネラルウォーターより5倍ほど厳しい。豊洲市場の地下水のヒ素も、水道水としては不適格だが、ミネラルウォーターなら大丈夫な水準ということになる〉

〈豊洲の地下水は、この水道水の基準を要求されている。この地下水を毎日2リットル、一生飲み続けても大丈夫という水準だ(略)これ以上の安全性を求めるのは、いくら何でもオーバークォリティというものではないのだろうか〉

 都のモニタリング調査で検出されたベンゼンとヒ素は、それぞれ基準の1・4倍と1・1倍。飲用や洗浄水にも使われない地下水としては、問題視するに値しない数字ではないだろうか。

■ムダ金となる税金

 安全対策に万全を期すのは間違いではない。だが、「基準値」が取り沙汰されてきたダイオキシン騒動などの例を鑑みると、その弊害も見えてくる。

〈騒動が起こるたびに求められる安全基準は厳しくなり、それが緩められることはないか、あっても長い時間がかかる。BSE(いわゆる狂牛病)問題などでも、感染の確立はほぼゼロとわかってからも長く全頭検査が行われ、数百億円の税金が投じられ続けた〉

 その片棒を担いだのは、「大ごとになる」ことを好むマスコミの体質にある、とも佐藤氏はいう。今一度冷静になり、「豊洲問題」を考える必要がある。

デイリー新潮編集部

新潮45 2016年11月1日掲載

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