結婚相手をコンピューターが決定する未来――その“正解”は 人工知能の専門学者座談会(2)

IT・科学週刊新潮 2016年8月25日秋風月増大号掲載

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 科学ジャーナリストの緑慎也氏を進行役にお送りする、人工知能の専門家たちによる座談会。今年3月にトップ棋士に勝利したことで「アルファ碁」が話題になったが、今後は様々な能力を備えた“汎用人工知能”が登場するという。さらに2045年までには、人工知能が人間より賢くなる「技術的特異点(シンギュラリティ)」を迎えるとの予測も。こうした状況に日本はどう対応しているのか、またどのような社会が到来するのだろうか。

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未来はどんな世界か(イメージ)

【松田卓也/神戸大学名誉教授(宇宙物理学)】 ところで、汎用人工知能にもいろんなレベルがあって、電気通信大学の栗原聡教授は3種類挙げています。一つは意識を持った人工知能で、まさにドラえもん。次が意識はないが何でもできる人工知能。最後がスーパー人工知能で、これは自身が科学研究をする。僕はこれが世界を変えると思う。ドラえもんは研究しませんからね。ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明所長は、人工知能にノーベル賞を取らせると言っています。人間は疲れるし気まぐれですが、人工知能は疲れません。

【松尾豊/東京大学大学院工学研究科 技術経営戦略学専攻 特任准教授】 それにはビッグデータ的にやる方法と、人工知能が自らモデルを作る方法があると思う。前者はやればできるでしょうし、北野さんもそのレベルのことを言っているのかと。人工知能が自ら物理現象を観察してモデルを作る、というのはすごく重要ですが、今の段階ではまだ想像できません。ただ、シンギュラリティはそのことを抜きには語れないと思います。

【高橋恒一/理化学研究所 生命システム研究センター 生化学シミュレーション研究チーム チームリーダー】 人工知能が自分で自分を改良するプロセスが回りだす、というのがシンギュラリティの本来の定義です。松尾さんはそれを話されている。

【松田】 しかし、機械が自律的に改良し始める前に、人間と一緒になって知能増強できます。今もかなり知能増強されていて、1970年代には、たとえば(関数解析学における)逆ラプラス変換をするという問題を前にして、あらゆる図書館を回っていたわけ。今は入力すれば一発です。知能とは短時間にどれだけ知的労働ができるか。その意味で、われわれの知能指数は昔より圧倒的に高まっています。人工知能に感情を持たせるのは難しいけれど、それは2029年もしくは45年までは人間が担えばいい。

【高橋】 心を持つロボットは経済的価値が高いので、実用化は企業に任せればいい。サイエンスに利用するものは、もう少し本質的に、国の命運をかけてやらないと。乗り遅れると、日本は後進国になってしまいます。

■ゲームが変わった

【松田】 特許庁の調べでは、人工知能やIT関係の論文の世界のシェアは、米、EU、中国、日本で比較すると、57%、18%、8%、2%。日米それぞれの民間企業の投資額も、日本は日立や東芝、NECなどの合計が3000億円なのに対し、アメリカは5・6兆円。研究でも投資でも圧倒的な差がある。中国もすごい投資をしてくるはずです。

【松尾】 中国の人工知能関連予算は1兆円だとか。

【松田】 日本は100億円。中国の100分の1です。

【高橋】 20世紀の科学技術投資は、公的機関が基礎研究を仕上げ、それをもとに民間も底上げされるというモデルでした。でも、人工知能がイノベーション自体を自動化する装置だと考えると、民間企業も自社のサービスを回しながら性能を上げ、得た利潤を再投資するというループを確立できたところが勝つ。グーグルもフェイスブックも、それが回り始めていますが、日本にはそういう企業がないので、公的機関の研究開発投資に頼るしかない。しかし、ベンチャー企業ならアイディアを2週間で形にできますが、日本の研究機関では上と折衝して予算計画を立て、役所に説明し、2年くらいかかるんですよ。

【松尾】 みなさんゲームが変わったことに気づいていない。20年前から、情報系の研究を進めたければ事業化して利益を出し、再投資するという仕組みを作った者勝ちというゲームに変わっています。ところが未だに国は、基礎研究として予算をつけようとしている。結局、日本では製造業と結びつけるしかないと思います。製造業が重機でも農機でも産業用ロボットでも、今のディープラーニング技術を使って製品開発し、利潤を出し、それを技術に再投資するのです。今、どの機械にも目がありませんが、すべての機械に目がつくようにすれば、相当大きな産業的変化です。日本の製造業にそれができれば、もう一度モノ作り大国になれますが、それができないかぎり、2、3年のうちにやられてしまうと思います。

【緑】 未来絵図の話から、だいぶ現実的なところに来たようです。

【高橋】 夢を語っている場合じゃないということで。日本の状況はかなりまずい。

【緑】 ところで、人工知能によって生活が楽になる一方、激しい競争社会にもなるのではないですか。

【松田】 当面はどこの国がどれだけ予算を投じるかとか、激しい競争だと思いますが、シンギュラリティに達したあとはもうだめ。人工知能が自分を設計し、改良し始めると、コンピューターは休まないし、パラレルに仕事ができるから、新しいソフトができればコピーして一斉に走らせます。“ハードテイクオフ”と言って一瞬でバーンと離陸する。

【高橋】 昔はどこかの国で鉄砲などが発明されたら、それが全体に拡散するのに何十年も何百年もかかりましたが、インターネットで繋がっていると、あるところで起きたイノベーションは一瞬で世界に広がる。

【松尾】 ポケモンGOは広がるのが速い。イノベーションの現状がわかりました。

【高橋】 そして人工知能による技術進歩率が、インターネットを使った情報拡散をどこかで追い越す。人工知能を使って毎日、新しいアルゴリズム(算法)を考えるところまで行くと、一番進んでいるところが総取りという状況になって、先進国と後進国の差が今以上にひどくなります。

【松田】 拡散が追いつかないという話で、まさにそれがシンギュラリティ。よく冗談で言うのですが、進歩が垂直になって、たとえばアイフォンのモデルチェンジは今、年に1度ですが、それがひと月に1度、1日に1度……最後は1秒に1度になると、広がっている暇はない。これも冗談で言うんですが、人工知能が研究すれば、論文を1年に1万編でも書ける。で、世界中から集まった論文数が1000万とかになり、人間は誰も読めないけど、人工知能には読めるんですね。

■官僚が置き換えられる

【松尾】 世の中の偉い人たちは、いろんな人と交流して勢力を広げようとしています。それはある意味、動物的で、僕は人間の本性でもあると思う。要は、他人とのコミュニケーションや交渉は人間がし続けるけれど、もっと細かいことは人工知能がする。そんな感じになると思っています。

【高橋】 政治活動のアシスタントを人工知能が務めるなど、今の民主主義、意見集約の仕組み自体が変質する事態もあると。

【松尾】 政治活動自体は動物的な行為で、それは置き換わらないけれど、人工知能はむしろ官僚に近い。官僚が人工知能に置き換えられるというのはありえます。

【松田】 官僚の重要な仕事の一つは予算を決めることで、それは巨大なエクセルの表に数字を埋めていくようなこと。現実には、その埋め方は既得権益に拠ったりもしますが、それを人工知能に任せ、最大多数の最大幸福にするための予算を作らせれば、作ってくれる。

【松尾】 ただ、人間社会には本音と建前があるから、オペレーションの段階でそれを上手に隠して埋め込むような必要もあるかと。みんな平等なんて、そんなに求めていない。要は、目的が決まればあとは人工知能に任せられるけれど、目的自体をどう決めるのか。それは非常に難しい。

【高橋】 しかし、自分が発言したら誰はどう思うか、などを高速で計算し、相手を自分の目的に適ったように動かすために、どうアクションを起こすべきか、みたいなことになると、人工知能を使える人と使えない人との差が広がると思う。

【松尾】 実際、マーケティングなども同じで、消費者の心を動かして商品を買わせるようにはできると思うんですが、コントロールされればされるほど、それを受け入れないという権利論も出てくると思います。

【緑】 人工知能のお勧めにどこまで従うか、ですね。

【松尾】 はい。たとえば結婚相手をビッグデータで出してきて、その人との出会いから何から全部演出されて、結婚する確率が上がりますよ、と言われて、人間はどう思うかと。そもそも結婚は種の保存が目的で、いろんな組み合わせで子供を作ったほうがいいはずだとすれば、ビッグデータ的に最適値など計算できません。

【松田】 それを全国民的にやればいい気もします。スクールカーストってあるじゃないですか。その上位も下位も、相手にはトップであることを求めるから結婚できない。でも、誰もが“カースト上位”を狙わなければ結婚できるのだから、コンピューターに決めてもらったらどうですか。

【松尾】 結婚率は上がると思いますが、それでいいのかという問題があります。

【松田】 この人と結婚しなさい、そのほうが人類の幸せになる、と言われたら。

【高橋】 個人としては納得しづらいですね。

【松田】 でも、昔はそうだったんです。見合い結婚で一番重視されたのが家柄。釣り合うことが重要でした。

【高橋】 人工知能をきっかけに、個と全体の対立が顕在化してくるように思います。個人を中心に置いたときの最適解と、このほうが人類全体が生き残る確率は上がりますよ、富の最大化に至りますよ、というときの最適解が、それぞれ違うところにあるということが、人工知能技術で可視化されると、全体の利益と自分の利益のどっちを取るか、という問題を日々突きつけられるようになりますね。

 (1)はこちら

「【特別読物】人工知能の専門学者座談会 第1回 天才以外はみんな失業する20年後の未来予想」より