東京ディズニーリゾートが立たされる苦境…USJ、ハウステンボスの来園者増の陰で

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 6月1日に東京ディズニーセレブレーションホテルが開業し、シーでは開園15周年イベントが大々的に開催中。そんな現状を見れば、東京ディズニーリゾート(TDR)の経営は順調のように思える。

 が、そんなTDRが抱える問題を、法政大学経営大学院教授の小川孔輔氏が「新潮45」6月号掲載の『東京ディズニーリゾートを蝕む異変』で指摘している。

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 2013年度に3130万人を記録したTDRの入場者数は、翌年度に3138万人へ微増したのち、昨年度は3019万人に大きく減少した。一方、競合の「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)は同期間で1050万人から1390万人と大幅に入園者数を伸ばしており、「ハウステンボス」も2009年度の141万人から、昨年度には300万人を突破する勢いを見せている。TDRの客足減には3年連続の入園料値上げの影響もあるかもしれないが、値上げを行ったのはUSJもハウステンボスも同じ。いずれも入園料はTDRの「大人7400円」と同水準である。

 にもかかわらず、

〈TDRへの最近の地域別来園者比率を見ると、USJのある近畿地区からの来場者は、2013年度の7.6%から2014年度は7.0%に減少している。ハウステンボスのある九州地区からの来園者も、同じ期間に8.3%から7.0%に構成比が低下〉※〈〉は本文より引用、以下同。

 来園客数でのTDRのシェアは、45%を割り込むほどの落ち込み様なのだ。現在、海外からの来園者は急増しているが、これも6月に上海ディズニーランドがオープンすることで、アジア地区からの送客に大きな期待はできなくなる。

〈この先に予想できるのは、入園料の値上げと競合テーマパークとの顧客の奪い合いによって来場者数が減少する可能性である〉

■マクドナルド以来の下落

 こうした不振の背景には、TDRの“顧客満足・サービス評価の低下”の影響もある、と小川氏はいう。小川氏が開発・改善委員会の座長として調査の設計運営に参加している「日本版顧客満足度調査」のデータによれば、TDRは常にランキングのトップを争う存在だった。しかし昨年の調査で、2009年以来初めてトップ10外に転落。顧客満足度指数(CSI)も2年間で8.9点ダウンした。“CS上位企業”のこうした下落は、

〈2014年に中国の協力工場で発覚した鶏肉の賞味期限切れ問題などで経営のミスが重なり、大幅な赤字に陥った日本マクドナルド以来のことである〉

 というから、ただ事ではない。

■抽選制の導入と、入園制限の廃止

 TDRの顧客満足度の低下と集客の困難を招いた遠因として、小川氏は、「オリジナルのコンセプトの変更」と「経営理念の変質」を挙げる。前者は、元来「舞浜リゾート」として行っていた地域の開発コンセプトを、シーのオープンを機に、「ディズニーリゾート」に変更したことで、柔軟性を失ってしまったという指摘だ。これらの詳細は「新潮45」本誌に譲るが、後者の「経営理念の変質」に伴うサービスの変化についての以下の記述には、TDRのファンなら同感を覚えるところではないだろうか。

〈本場のディズニーランドでは、いまでもゲストはショーを立ったままで見ている。混雑しているとパフォーマンスは見にくくなることは確かだが、日本ではゲストから「(ショーが)見られない」というクレームが来たので抽選制が導入された。公平さを確保できたのはいいが、抽選でほとんどのひとがショーを見られなくなった。なんのための抽選制度なのかがわからない〉

 東京ディズニーランドの開業時にあった「ピーク・イン・パーク」という入場制限(入園者が一定数を超えたらゲートを閉める)も、来場者からのクレームを恐れた結果、米国の基準ほど厳格に行使されていない。結果、TDRはパークの面積当たり米国の約2倍の来場者を受け入れる事態となっており、その混雑ぶりはご存じの通りだ。

 そして自身の仮説と断った上で、小川氏はこう続ける。

〈こうした事態を招いたのは、オリエンタルランド側の経営姿勢(売上高至上主義)とオペレーションの仕組み(効率重視)について、長期的な視点が欠如しているからである。(略)「パーク全体でゲストを楽しませる顧客対応」をいつのまにか諦めて、「アトラクション単位でのプロモーション」と「ゲストを効率よくさばくこと」を業務指針の中心に据えた結果である〉

 記事ではさらに、クルー・キャストの質の低下や新アトラクション導入の停滞についても触れ、“夢と魔法の王国”を運営するオリエンタルランド社が直面する困難について解説している。

2016年6月22日掲載

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