パナマ文書掲載企業の言い分 公表したICIJに「訴えてやりたい気分」

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 存在が明るみに出てから一月余り。世界を震撼させたパナマ文書のデータを有する「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)は、日本時間の10日午前3時、ついに公表へと踏み切った。図らずも世界に拡散されてしまった日本企業と経営者らは、どう応えるか。

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 パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した文書には、タックスヘイブン(租税回避地)での法人設立について、全世界の21万余りの企業と関係者37万人が登場する。2・6テラバイトというとてつもない容量の「機密」は、まず南ドイツ新聞社に持ち込まれ、ここからICIJへと渡った。各国の首脳らが登場する「税逃れ証文」の脅威は、一斉公表によっていや増すばかりだ。

 日本に関しては、ICIJと提携する朝日新聞と共同通信によって情報の分析が進められた。すでに「セコム」の創業者である飯田亮・取締役最高顧問が英領バージン諸島などで大量の自社株を管理していた事実や、同じくバージン諸島に設立された2法人の株を「UCCグループ」の上島豪太CEOが単独で所有していたことが報じられている。

 本誌(「週刊新潮」)は、10日のICIJによる公表に先駆け、日本関連のファイルを独自に入手した。そこにはモサック・フォンセカに契約を取り次いだ代理人の名や、各地のタックスヘイブンに設立した法人名、その株主と連絡先などが、アルファベットで綴られていた。国内に住所を置く法人・個人合わせ、その数ざっと400件。うち、外国人や重複などを除くと、およそ260件となる。連絡先とされる土地と建物の登記簿謄本と、当該人物の在籍する企業の商号登記簿謄本を併せて取り寄せ、丸裸にした「日本人リスト」をもとに、あらためてタックスヘイブンを目指した経緯を尋ねてみた――。

伊藤忠商事

■“正直者がバカを見る”

 マネーロンダリングや犯罪資金の隠れ蓑など、とかく負のイメージがついて回るタックスヘイブン。が、かの地に法人を設立すること自体は、ただちに違法ではない。実際に、名を連ねていた企業に尋ねると、

「租税回避が目的ではありません」

 とは、のべ11件も文書に登場する伊藤忠商事の広報部報道室である。

「一般的に日本だと法人設立に数カ月かかりますが、当該地域では手続きの日数が短く、比較的容易です。また英国領であれば、欧米同様の法体系が維持されている。もし新興国で会社を設立すると、会社法や商法といった法秩序に難があり、リスクが高くなるのです」

 そもそも、

「日本には厳格な『タックスヘイブン対策税制』が存在するので、外国にある子会社の利益は、親会社の所得に合算されて国内で課税されることになります」

 同じく名前の挙がった丸紅も、

「タックスヘイブンにいくつか法人を持っているのは事実ですが、全てコンプライアンスに基づいております。そうした国々では、事業が終了して不要になれば簡単に清算できるという利点があります。海外で機動的にビジネスを展開するには使い勝手がよいのです」

 個人で記載されていた都内の海事会社社長(57)は、

「10年ほど前、香港の代理店に自ら出向いてオフショア会社を設立しました。そこでは担当者が『マーシャルにしますか、バージン諸島にしますか』と、すでに存在する会社をいくつか提示してくれた。パスポートを見せ、1時間足らずで手続きは済みました。費用は100ドルほど。結局BVI(バージン諸島)にしたのですが、そこで進めようとしていた取引ができなくなったので近く解散しようと思っていたら、この騒ぎが降って湧いたのです」

 それでも、やましい点は皆無だといい、

「もし脱税目的で作るのなら、申し込みの時点で名義を弁護士など代理人にすることもできる。私は堂々と名前と自宅を登録したのに、それで全世界に公表されてしまうのなら“正直者がバカを見る”という思い。本当にバレたらまずい人は、そうやって名前が出ないように登記しているのです」

■「訴えてやりたい」

 以上、まっとうな業務の一環と説く向きをご紹介したのだが、全国津々浦々の登場人物を手繰り寄せると、経緯はまさに十人十色。例えば近畿地方の靴下製造会社の元役員(60)は、社長の複数の親族らとともに文書に記載されており、

「7、8年前、社長に『海外に会社作るから名前貸して』と言われました。うちは人件費の安い中国に工場を作ったのですが、上海のコンサルタントから『高い税金をとられる』と聞かされ、セイシェルに別会社を作って工場の利益を移した方がよいとなった。もちろん日本ではきちんと納税していました。大体、今の商売にも差し障りがある。名前が公表されたら、ICIJとかいう連中を訴えてやりたい気分ですよ」

 市井の人が一夜で名を馳せそうな事例は、まだある。

「パナマ文書? 私が? 漢字? カタカナ? 人違いでしょ」

 とは、都内中野区でクリーニング店を営む男性。それでも何とか思い起こして、

「2年ほど前、香港にいる知り合いから『会社を作りたい』と言われて『名前を使ってもいいよ』というような返事をした覚えはあります。香港ではそういう会社を作るのは難しくないとは聞いていましたけれど……」

 山口県で漢方薬販売を手がける70代男性も、青天の霹靂だという。

「タックスヘイブンに移すほどの資金などありません。うちは固定客に販売しているだけで、売り上げは月に30万~40万円程度。そういえば、商品取引で10年くらい前に中国の大連に出向いた時、怪しい香港の業者と名刺交換をしたのですが、あとで勝手にペーパーカンパニーを作って“維持費の請求書”が送られて来たことがありました。『半年払わなければ自然消滅する』というので、猛抗議した上で放っておきましたがね」

 文書には、その法人設立に関し、東京・千代田区にある「三宅・山崎法律事務所」の名も記されている。

「オフショア・カンパニーの設立自体は合法ですから、依頼があれば業務として行っています。海外の仕事を手掛けている法律事務所であれば、どこでも行っている業務です」(同事務所)

 が、先の山口県の男性は、

「そうした事務所には、まるで心当たりがありません」

 と言うばかり。

 大阪府内の鏡板メーカー経営者(66)も呆れ返って、

「もう20年も中国に常駐して、名刺も何千枚とばら撒いてきましたが、手数料の督促も来たことがありません。身に覚えのない話で、大笑いですわ」

 何しろ、世界中のジャーナリストに共有され、公益性の名のもとネット上に晒されてしまうのだ。戸惑いを隠せないのもむべなるかな、である。

「特集 日本関連400件を全調査!『パナマ文書』掲載企業・掲載個人の言い分」より

週刊新潮 2016年5月19日菖蒲月増大号掲載

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