白洲正子さんゆかりの「観音様」が上野「不忍池」に来たワケ

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〈私はえたいの知れぬ魅力にとりつかれてしまった〉――『近江山河抄』にそう記した白洲正子が、幾度も足を向けたのが、滋賀県の湖北地方である。

 現在の長浜市周辺にあたる一帯は“観音の里”と呼ばれ、奈良、平安時代の仏像を安置した小さなお堂が点在。約130の観音様たちを、集落の人々が戦火から大切に護ってきた。

 その中のひとつが3月21日、東京・上野にオープンした「びわ湖長浜 KANNON HOUSE」でお披露目された。長浜市の情報発信拠点として、不忍池のほとりに誕生した現代の“観音堂”。地方自治体が東京に開く他のアンテナショップとは、一線を画しているのだ。お馴染みの特産品販売や飲食スペースは一切ナシ。モノトーンを基調とし、長浜産の檜材に囲まれた台座には、観音様が鎮座するだけ。ギャラリーのような雰囲気の中で、ゆったりと鑑賞できる。

「今回は、琵琶湖に浮かぶ竹生島(ちくぶしま)の宝厳寺様からお借りした聖観音立像を展示しますが、今後は2カ月に一度、交代で様々な観音様をお披露目します。本物の持つ魅力を知って頂き、長浜に足を運んで頂ければ」

 とは、藤井勇治市長。施設には、市の職員と学芸員が常駐して観音様の解説をしてくれるが、なぜ上野の地が選ばれたのか。

「江戸時代に上野寛永寺を創建した天海上人は、不忍池を琵琶湖に見立てて、竹生島に模した弁天島を築かせたという謂(いわ)れがある。それだけ長浜とは古くから縁のある場所なのです。周辺には博物館や美術館も多く、文化的なモノに興味のある人々が集まるので、近江の魅力をアピールするにも絶好な場所だと思っています」(市地方創生室の三家秀和氏)

 国から地方創生の交付金が支給され、その使い道として昨年から準備したという。

「東京に不慣れな市の職員が、レンタサイクルで物件を探し回ったところ、不忍池を見渡せるビルが見つかった。これも何かのご縁でしょうか」(同)

 7月には東京芸大美術館で、観音様を集めた展示会も開かれる。

週刊新潮 2016年3月31日号掲載

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