「東福岡高校」が強い理由……サッカー部は日本一で、バレー部は“春高”連覇
この年末年始、スポーツ紙の紙面を飾った回数では、箱根駅伝2連覇の青山学院大学を凌ぐかもしれない。相次ぐ“全国制覇”で、高校スポーツを席巻する東福岡高校。“朝練ナシ”“学業優先”を掲げる新世代のスポーツ強豪校は、如何にして成功を遂げたのか――。
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前回王者として“冬の花園”に臨んだラグビー部は準決勝で敗退したものの、バレー部は“春高バレー”を連覇で飾ったし、サッカー部は全国高校サッカー選手権で17年ぶりの優勝。福岡県福岡市博多区にある男子校「東福岡高校」には、2つの日本一と全国3位の称号がもたらされ、高校スポーツ界に旋風を起こしているのだ。
それでいて方針は学業重視、原則的に部活の朝練は認めていない。放課後の練習も2~4時間だけ。いわゆるスポーツコースも設けていない。
そんな東福岡が、スポーツ強豪校としての地位を築いたのには、理由がある。
古豪“バイエルン・ミュンヘン”の芝
そもそも東福岡は、約2600人の生徒数を誇るマンモス校で、サッカー部は実に280人もの部員を抱える大所帯だ。
志波芳則総監督が言う。
「3年生が引退した現在も200人はいますから、確かに多いですよね。練習は部員をAからFまでの6グループに分け、それぞれにコーチをつけて行います」
東京ドーム2個分の広大なグラウンドには、ドイツサッカー界の古豪“バイエルン・ミュンヘン”の練習場と同じ人工芝が敷かれるなど、施設面も充実している。ただ、全国大会に出場できるのはひと握り。レギュラー入りできずに腐ってしまう部員はいないのか。
「週に1度、入れ替え戦があるので、“A”の選手は気が休まらないし、下のグループの選手もモチベーションは高い。7人の教員に加え、フィジカルコーチやゴールキーパーコーチなど、指導するスタッフも総勢17人に上ります」(同)
サッカージャーナリストの安藤隆人氏が付け加えるには、
「東福岡のAチームは高校サッカーの最高峰“高円宮杯プレミアリーグ”に所属し、BチームからDチームも県内のサッカーリーグなどに参加しています。昔のように補欠選手がボール拾いに明け暮れることもなく、実戦経験が豊富。また、どのチームもサイドチェンジを多用し、スピードに乗った攻撃が身上の“4-1-4-1”というフォーメーションを叩き込まれるため選手層が厚い。体幹トレーニングを導入して、当たり負けしない身体づくりにも努めています」
さらに、練習の多くをハーフコートで行うことで、短時間でもパスの正確性や、オフザボール(ボールを持っていない時)の動きを磨くことができるという。こうした蓄積が、常勝軍団を復活させたのだ。
同じメニューは10分以上続けない
短い練習時間で結果を出すという点では、ラグビー部も負けてはいない。
「うちの練習は1時間半から2時間半で、週に1日は必ず休養を取ります」
とは、藤田雄一郎監督の弁。大人数での連携プレーが必要なラグビーでは、長時間のチーム練習は欠かせないように思えるが、スポーツライターの直江光信氏はこう語る。
「東福岡のトレーニングは独特です。高校ラグビーでは攻守の練習は別々に行い、多くの場合、決まった攻撃パターンを覚えることに専念します。ただ、藤田監督は“ラグビーの試合で練習と同じ状況は起こらない”という考えで、どんな状況にも対応できる能力を重視する。そのため、攻撃の練習でも、どんな動きをするか読めないディフェンスの選手と対峙させます。他校と大差ない練習内容でも、ペースを速めて瞬時の判断力を高め、同じメニューは10分以上続けない。そして、練習で得られる効果を常に選手に考えさせる。そうしたことの積み重ねで、自由度の高いプレースタイルを確立したのです」
ちなみに、ラグビーが盛んな福岡県では小学校時代からスクールに通う選手も珍しくなく、有望株が集まりやすい。
その一方で、8年前にチームのキャプテンを務めた上田竜太郎選手のようなケースもある。未経験者ながら高校でラグビー部の門を叩いた彼は、この練習環境で揉まれて“U20日本代表”にも選ばれた。
調子に乗れない
続けて、“春高”で史上7校目の連覇を達成したバレー部に話を移そう。
「先日、行われた春高の決勝で東福岡に敗れた鎮西高校の選手は、“どこに打っても拾われてしまう……”と肩を落としていました」
バレーボールライターの中西美雁氏はそう明かす。
「高校バレーではエースアタッカーの決定力が勝負を左右し、練習でも攻撃に重点を置きます。確かに東福岡にも、東京五輪の強化指定選手に選ばれたエースの金子聖輝(まさき)選手がいますが、練習ではひたすら守備の強化に努めてきました。しかも、高い台の上から打ち下ろされるスパイクに喰らいつく、Vリーグのチームさながらの練習を延々とこなしていた。レシーブした球をきちんと繋ぐ意識も徹底されているため、セッターはトスを上げやすく、良い形で攻撃に移れるのです」
それぞれの指導者が独自の理論に基づく“選択と集中”によって、選手を強化してきたことが分かる。また、各部の活躍が、新たな相乗効果も生んでいる。
「同じクラスに日本一になった生徒が何人もいるので、インターハイに出場しただけでは調子に乗れない。クラスメイト同士が全国大会の結果を競い合う環境は他校にはありません。これも東福岡の強さの秘密だと思います」(前出・安藤氏)
“牽引役”か、高校止まりか
まだまだ東福岡の“黄金時代”は続きそうだが、スポーツ評論家の玉木正之氏はこんな懸念を口にする。
「東福岡のように多くの“体育大会”で勝利すれば学校の宣伝になり、入学希望者も増える。ただ、そのために部活を強化し続けることは、もはや教育の一環ではなく、ある種のスポーツ興行と言えます。学校体育の主眼はあくまでも学習研究で、全国大会に出場してメディアで騒がれることではありません。特定の学校が独り勝ちする状況は、必ずしもスポーツ界の発展には繋がらないと思います」
サッカージャーナリストの六川亨氏も手厳しい。
「サッカー界では1990年代末頃から、中学時代にジュニアユース、高校でユースチームを経験してプロ契約するという、エリートコースが顕著になってきました。その過程でセレクションに漏れた選手が、高校サッカーの強豪校に入学し、東福岡にもジュニアユース出身選手は少なくない。確かに、東福岡のサッカーは目を引くものがありますが、それでも卒業後にJリーグ入りする選手が今季はゼロ。つまり、いまの高校サッカーにはプロで即戦力になる選手が見当たらないのです」
実際、リオ五輪最終予選に出場する23歳以下の代表チームも、ユース所属の選手が過半数を占めている。
日本のスポーツ界を牽引するか、高校止まりか。それは定石外れの練習で常勝軍団となった彼らの、今後の活躍に懸かっている。