中型専門に大型バスの運転を任せた激安バス会社

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 若者を中心に15人もの命を奪ったスキーバス転落事故。バス会社のずさんな管理から不可解なルート変更まで、安全が二の次だった実態が次々と浮かび上がっているが、とりわけ問題なのは死亡した運転手のスキル。素人同然の運転手が、危険度の高いスキーバスを任されていたのである。

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15人もの命を奪ったスキーバス転落事故

 事故を起こしたバス会社、東京都羽村市のイーエスピーを訪れると、そこはイーグルなる中古車販売会社の中に、小さな事務所を構えるにすぎなかった。会見で山本崇人営業部長は、イーエスピーについて、

「平成20年7月に警備会社として始まり、一昨年5月からバス運行を始めた」

 と語ったが、要は、中古車販売業の傍らで始めた警備会社の、さらに片手間の事業ということになる。

 北海学園大学経済学部の川村雅則教授が言う。

「2000年の規制緩和で、バス会社の数が2倍になった。規制を緩和するなら厳罰処分をセットにしないと、悪質な行為は淘汰されません。今回のバス会社も、運転手の健康把握が不適切で処分されたものの、車両の1台が停止処分になっただけで営業はできていた。また、参入規制の基準が甘すぎました。一定の条件を満たせば異業種からの参入も認めたのですが、異業種は運行管理の考え方がおろそかになりがちです」

 高橋美作社長は土下座して謝罪した際、

「心のゆるみがあった」

 と認めたが、運転手の健康診断も出発前の点呼も怠り、国が定めた運賃の下限より8万円も低い19万円で運行を請け負う――という目に余る“ゆるみ”には、理由があったのだ。

 だが、それにしても、バスはなぜ予定のルートを変更し、峠道で転落するにいたったのか。

■乗り方を知らなかった

バス会社のずさんな管理

「貸し切りバスの運賃もタクシー同様、距離と時間で決まる。だから有料道路の料金なら“片道1万円”というふうに決められた中で調整します。今回、関越道の高坂サービスエリアが混んでいたので、その先の上里を使ったのは、運転手個人の判断でしょうが、それで高速代が高くなってしまうので、一般道を使って帳尻を合わせようとしたのだと思いますね」

 そう語る都内の貸し切りバス会社の役員氏は、死亡した土屋廣運転手(65)の判断を、こう読むのだ。

「ベテランのバス運転手は、碓氷峠で高速代を浮かせようなんて考えません。いくら混んでいても東松山経由のほうが運転が楽。こんな道を選んだことで、素人だとすぐわかります」

 土屋氏は素人なのか。イーエスピーには昨年末、契約社員として採用され、それまで5年間務めた会社では中、小型バス専門で、大型バスの運転経験は4回だけ。その前に10年務めていたバス会社に聞いても、

「勤務態度はまじめでしたが、お願いしていたのは主に中型で、大型を運転してもらったのは数回程度」

 と言う。 役員氏が続ける。

「同じバスでも9メートルの中型と12メートルの大型では車両感覚も違い、大型はエアサスペンションなので遠心力で引っ張られ、オーバースピードではカーブを曲がりきれない。特にスキーバスは危険度が高く、中でも山道はベテランと一緒に研修してから運転させるのが通常です。それを経験が乏しい人に任せるとは酷い。とはいえ、事故を起こした道はそれほどきつくはないので、バス会社の関係者はみな“乗り方を知らなかったんだな”と話しています」

 中古車販売業者の認識不足を指摘したところで、未来あった若者たちは、二度と帰らない。

「ワイド特集 炎上中に寒中見舞い」より

週刊新潮 2016年1月28日号掲載

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