軽減税率「財源攻防」のウラで暗躍する菅官房長官

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 生鮮食品に限るのか、加工品も含むのか――。

 12月10日にも策定される来年度の与党税制改正大綱は、軽減税率が難題である。再来年4月の消費税率10%への引き上げに対する負担緩和策だが、自民と公明の“財源攻防”のウラ側で、菅義偉官房長官(66)が何やら蠢(うごめ)いている。

「財務省の役人に対し、財源を拡大するよう、発破をかけているんです」

 とは、自民党関係者。

「11月頭に始まった軽減税率を巡る協議は、当初、自公の税制調査会の幹部同士で行われていました。が、適用範囲を生鮮食品に限定したい自民側と、パンやハムといった加工品にまで広げたい公明側とで、折り合いがつかなかった。その状況は、幹事長間の協議に格上げしても変わらなかったため、菅さんが調整に乗り出した。来年の参院選のことを考えれば、公明側のご機嫌を損ねたくはありませんからね」

 改めて説明すると、自民側の言い分は、1年間に個人の支払う医療費や介護費の総額に限度を設ける「総合合算制度」の導入を見送ることで4000億円を浮かせ、約3400億円で出来る生鮮食品への軽減税率の適用に充てようというもの。これに対して、公明側の求めに応じて加工品にも適用するには、約1兆3000億円もの財源が必要となる。

 そこで菅官房長官は、財源を4000億円以上に上積みさせようと、動き出したのだという。

「菅さんには、こんな“勝算”があるんです。安倍官邸が消費税率の10%への引き上げに積極的でないことは周知の通りなので、財務省側は迂闊に財源の上積みを突っぱねられない。というのも、軽減税率を巡る与党協議が決裂し、来年度の与党税制改正大綱に制度案を盛り込めなければ、再来年4月の導入が危ぶまれます。すると、安倍官邸が、消費税率の引き上げ自体を再延期しかねない。だから財務省側は、不本意ながらも、軽減税率の財源の上積みに奔走するしかないのです」(同)

 これぞ、“策士”の“脅し技法”である。

■「当事者でもないのに」

 もっとも、面白くない思いをしているのは、財務省のお役人だけではない。元大蔵官僚で、当初の協議担当者だった自民党の宮沢洋一税調会長(65)こそ、その筆頭であろう。

「宮沢さんは“素人”に頭越しにされたようなものですからね」

 と、政治部デスクが苦笑する。

「財務大臣経験者の谷垣禎一幹事長だけならまだしも、税制に明るくない菅さんまで登場したことで、面目は丸潰れ。しかも菅さんは、財務省に圧力をかける一方で、創価学会の幹部と水面下で接触を重ね、財源を4000億円以上に上積みする可能性まで伝えていたそうなのです。このことを伝え聞いた宮沢さんは、“当事者でもないのに、なんで勝手に介入してくるんだ!”と、周囲に怒りを露わにしていましたよ。ま、最初から宮沢さんが協議をまとめていれば、菅さんの出る幕はなかったわけなんですが……」

 結果的に注目を浴びたのは、良きにつけ悪しきにつけ取り沙汰されてきた、菅官房長官とある人物との関係であった。創価学会の政治担当として知られる、佐藤浩副会長だ。

「菅さんは、昨年7月に行われた集団的自衛権を巡る閣議決定の際も、紛糾する与党協議のウラで佐藤さんと調整を重ね、最終的に公明側に閣議決定を呑ませることに成功しました。その時と同様に、今回も軽減税率の適用範囲の拡大を求めている創価学会の方から、懐柔を試みようというわけです。さすがに、公明側が求める1兆3000億円分の財源を捻出するのは非現実的なので、酒、菓子、外食、飲料を除いた加工品に絞り、約8200億円分に下げるといった最終的な落とし所を探っているのでしょう」(同)

 期限となる10日の与党税制改正大綱の策定まで、菅官房長官の“暗躍”は続く――。

週刊新潮 2015年12月10日号掲載

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