1500万円「心臓シート」を使える人、使えない人

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 日本の再生医療が躍進する契機になるか――中央社会保険医療協議会は11月18日、再生医療製品2種類の保険適用を決定した。

「昨年11月に施行された“医薬品医療機器法(旧薬事法)”は、再生医療製品の迅速な実用化を目指すもの。この法律下で最初の保険適用となりました」(厚生労働者担当記者)

 注目は“心臓シート”。重症心不全患者用で、大阪大学大学院心臓血管外科の澤芳樹教授が開発し、医療機器メーカーのテルモが共同研究を進めていた。商品名は“ハートシート”。

「心筋梗塞とは、心筋の一部が壊死した状態ですが、そこに患者自身の太腿の骨格筋からとった“筋芽細胞”を培養したシートを貼り付けると、それが心筋の回復を助ける」(同)

 驚くのはその価格だ。骨格筋の採取から培養、貼付までセットで1476万円。保険と高額療養費制度の適用で、自己負担を数十万円に抑えることは可能だが、

「公費負担が増え、医療費の増大につながる」(同)

 それでも、全国に20万人いるとされる重症心不全患者には福音に思える。が、

「治療には、厳しい基準が設けられています」(同)

 心不全の重症度を表す“NYHA心機能分類”でIII度またはIV度(心疾患で高度な身体活動の制限がある)、かつ安静時の左室駆出率が35%以下で、心臓移植以外の根治手段がないこと。

 さらに患者の状態、実施施設や設備機器、携わる医師等の資格について、厳しい基準が定められている。5年間で123人程度の適用と推定されるほどの狭き門なのだ。

「心臓シートは、心筋を復活させるわけではありません。野球に例えれば、低迷するチームを活性化するための助っ人のようなもの」

 と説明するのは、昭和大学医学部心臓血管外科の南淵明宏教授だ。

「もし心臓に厚い脂肪があれば、シートが受け取る酸素が少なくなり、効果は小さくなるでしょう。逆に冠動脈バイパス手術を組み合わせれば、効果は倍増するかもしれません。何よりこれから、治験例を積み重ねていくことが大事です」

 まだしばらくは、“人を選ぶ”治療かも……。

週刊新潮 2015年12月3日号掲載

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