テロリストの生け捕りは考慮しない軍装備の「特殊警察」

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 テロリストたちが立てこもったコンサート会場に突入したのは、フランス国家警察に所属する「BRI(探索出動班)」と、その指揮下にあった「RAID(特別介入部隊)」という2つの特殊部隊からなる80人の混成チームだった。軍隊並みの装備を誇る彼らの使命はあくまで敵の制圧で、生け捕りなどは考慮に入れない特殊な警察組織である。

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画像出典:YouTube
ISIS reivindica masacre de París-ISIS attacks Paris

 テロリストたちは、フランスのシリア爆撃の即刻中止を求めたとされる。RAID所属の交渉人は人質の解放を要求したが、両者の話し合いがまとまるはずはなかった。ジリジリと時は過ぎ、時計が午前0時を指すと、交渉人は彼らに20分の猶予を求めた。が、これは突入チームが態勢を整える時間を稼ぐ方便に過ぎなかった。そして――。

「大きな爆発音とともに、エントランスの扉が吹き飛んだのです。次の瞬間、小銃を手に待機していた全身黒ずくめの隊員たちが次々に突入して行きました」

 と、フランス人ジャーナリストは突入の瞬間を振り返る。ISの戦闘員3人がコンサート会場「バタクラン劇場」を占拠してから、2時間以上が経過していた。

「1階の制圧はRAID、2階はBRIが担当し、80人の隊員が突入していきました。建物内には至るところに遺体が横たわり、それを踏み越えながら犯人を捜索したそうです。一方、異変に気付いたISの3人は自動小銃で応戦したものの、1人が射殺されたと知るや、残る2人は身体に巻きつけた爆弾を起動させて次々に自爆したとのことでした」

 この間、わずか2分。が、発煙弾の煙が収まると、隊員たちは周囲の余りの凄惨さに言葉を失ったという。

「ステージ前のフロアには、数えきれない遺体が折り重なっており、おびただしい血で染まって足の踏み場もなかったそうです。血の海で足を滑らせないように、匍匐前進していた隊員もいたといいます」

 壁や天井には多くの弾痕が残されており、後に隊員の1人は言葉少なにこう振り返ったという。

「劇場の中はまさに戦場のようだった――」

 死者89人(16日現在)に加え、多数が負傷したのである。

■軍隊顔負け

 とにかく犯人の身柄確保にこだわる日本に比べ、フランスは殺害を厭わずあくまで冷徹に相手の制圧を最優先とする。在仏ジャーナリストによれば、

「BRIは組織犯罪対策中央局の所属で、普段はマフィアなどを対象とした犯罪捜査に従事しています。RAIDはFIPN(国家警察介入本部)の管轄で、彼らは捜査は行わない対テロ専門の武装集団です。11人が死亡した1972年のミュンヘン五輪事件など、70年代はフランス国内外で犯罪組織やイスラム原理主義者による事件が相次ぎました。これら2つの特殊部隊は、当時急速に武装化が進む犯罪組織に対抗すべく相次いで創設されました」

 そのため、警察予算は国防予算に匹敵するという。昨年度の国防費は約620億ドル(約7兆6200億円)とされるが、

「その約半分が、国家警察に割り振られているのです」

 軍事ジャーナリストの世良光弘氏が解説する。

「彼らの装備は軍隊顔負けです。防弾性に優れたケブラー製のフェイスマスク付き防弾ヘルメットや、防弾チョッキなどで全身をガードし、武器はサブマシンガン、ショットガン、拳銃のほか、手榴弾も身につけています。頻繁にフランス軍と演習を行っており、彼らの戦闘能力は日本の警察とは比べようもありません」

 逮捕は二の次という、日本ではありえない警察だ。

「特集 7人のテロリストで死傷者480人 自爆の爆薬は『魔王の母』 パリを硝煙の都に変えた『イスラム国』に次がある!」より

週刊新潮 2015年11月26日雪待月増大号掲載

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