【詐欺師の素顔】会員112万人を誇ったネズミ講「天下一家の会」元副会長かく語りき!

社会週刊新潮 2015年8月6日通巻3000号記念特大号掲載

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 ミッキーマウスの誕生から39年後の1967年。高度経済成長期の真っ只中に、熊本県の片田舎にも1匹のネズミが現れた。ネズミ講を主宰した「天下一家の会」の創始者、故・内村健一会長である。全国で112万人の会員を集め、被害総額は実に1900億円。人々に絶望と破滅をもたらしたまま95年にこの世を去ったが、往時を支えた元副会長が過去を語った。

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「創立から6年目の72年に、親父が20億1400万円の脱税容疑で逮捕され、さらにその6年後には元会員が起こした返金訴訟でネズミ講は公序良俗違反だと指弾された。親父はあくまで“すべての人は皆兄弟。兄弟だから集めた金は皆で使おう”という発想で、“天下一家の会はPTAと同じ。会費で運営しているものが大きくなっただけ”とも言っていた。でも、親父の言葉には誰も耳を貸さず、そのうちネズミ講を禁止する法律まで作られた。私としても、当時は納得いかない部分はありました」

 と、大学卒業後に副会長を務めた、内村氏の長男(67)は静かに振り返る。

「確かに私は副会長でしたが、それは親父が勝手にそう呼んだだけ。同じ組織の中で“内村さん”もおかしいでしょう」

 日本中に拝金主義というつむじ風をもたらしたネズミ講は、67年3月に熊本県甲佐町で保険外交員をしていた内村健一氏が、天下一家の会の前身に当たる「第一相互経済研究所」を設立したことに端を発する。

「4人の子会員を勧誘すれば、2080円が102万4000円になる」を謳い文句に始まったネズミ講の仕組みは次の通り。最初に2080円を支払って加入すると、その内の1080円が本部に、1000円が自分より6代前の会員に送金される。同様に新会員がそれぞれ4人を勧誘して新たな子会員を獲得すると6代後の会員は1024人になる。その時点で全員から1000円ずつ、合計102万4000円が送金されて来るというワケである。

 が、これは必ず行き詰まる。計算上では15代目には会員数が2億人を突破することになり、優に日本の人口を超えてしまうからである。となると、もはや新会員の獲得は不可能で、下部会員を持てない場合は丸損になる。この点こそが、ネズミ講は詐欺だと非難された最大の理由に他ならない。

 その後、会の勧誘ノルマは2人と改められたものの、「計算上は2人の勧誘でも28代目に日本の人口を超えます。でも、勧誘された皆が会員になるわけじゃない。実際、12年で112万人しか集まらなかった」

 しかし、そんな強弁が通るはずもなく、79年に「無限連鎖講防止法(ネズミ講防止法)」が施行され、天下一家の会は活動を停止した。当時の人口は約1億1600万人だから、国民の約1%が歪なマネーゲームに狂奔していたことになる。

■年収20億円

 創始者の内村会長は、終戦を20歳で迎えたという。

「海軍の予科練を経て特攻隊に入っており、8月18日に出撃を控えていたのが、終戦で命拾いをした。“これまでは国が面倒を見てくれたけど、これからは自分で何とかするしかない”と、あれこれ生きる術を考えた世代の1人だったのです」

 裁判資料によると天下一家の会は創立から9年後の76年にピークを迎え、1日に1億円の入金も珍しくなかったとされる。この年の内村会長の年収は2億7770万円で、全国長者番付で39位。現在の価値で20億円以上を手にしていた。

「でも、私腹を肥やすことはありませんでした。物への執着もなく、一方で全国12カ所に会員向けの無料保養所を作ったのは、あくまで集まった金は皆のものと考えていたからです」

 元副会長はそう言うものの、裁判では内村会長が小型飛行機や自家用ヘリ、高級外車や骨董品を購入していたことが明らかにされている。それが先の返金訴訟でネズミ講が「公序良俗に違反している」とされた理由の一つであり、加えて内村会長は自身の裁判に出廷する際に、女性運転手が運転する6ドアの大型ベンツで乗り付ける様子が報じられているのだ。

 その内村会長は83年に脱税で懲役3年、罰金7億円の有罪判決を受け、罰金の全額を支払えず刑務所に収監された。出所後、腎不全で69歳で死亡したのは20年前のことである。

 それにしても、40年余を経てもなお、元副会長からはついぞ反省の弁は聞けなかった。79年に『マルチ商法とネズミ講』を出版した、悪徳商法被害者対策委員会の堺次夫会長が指摘する。

「今さらどんな理屈を並べても、ネズミ講は社会的に否定された。だからこそ規制法ができたわけです」

 あくまで元副会長が悪びれないのは、

「当時は法律がないのを良いことに、何をやっても許されると本気で思っていた。今でも昔の思考が抜けないのでしょう」

 と、吐き捨てるのだった。

「ワイド特集 週刊新潮3000号を彩った華麗で卑怯な詐欺師たちの顔」より