酒造500年の歴史を描く/『日本酒の近現代史 酒造地の誕生』

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 日々おつきあいいただいている日本酒。その来歴や氏育ち、経てきた苦難の歴史などを知ると、旧友の苦労話に耳を傾けているような心持ちになる。

 近現代において日本酒出荷量のピークは、オイルショックによって高度成長期が終わる昭和四八年度の一七六万六〇〇〇kl。その後は、“日本酒離れ”に加え、平成七年の阪神・淡路大震災では灘の酒蔵が壊滅的な被害を受け,出荷量は坂を転げ落ちるように減少の一途を辿る。平成二四年度の出荷量は五八万kl。最盛期の三分の一にまで落ち込んでしまった。酒造家の数も、昭和三三年度の四二〇一場を頂点として減少が続き、平成二四年度には半数以下に。幕末・維新のころには全国各地に二万七〇〇〇もの酒造家があったというから、実に九割もの減少率になる。本書には、現在、日本酒が直面している危機が具体的なデータで示されている。

 ユニークなのは、著者が国税庁の関係機関に籍を置いていた関係で、酒税を軸にした分析が行われているところ。江戸幕府が元禄時代に創設した酒税「酒運上」は、税率がなんと酒価の五割だったという。「しもじも猥りに酒を呑み、不届きなる儀と仕り候につき」というのが表向きの趣旨だが、勿論、狙いは幕府の財政補填。近代でも酒税は、地租、所得税と並ぶ三大基幹税として位置づけられ、明治三二年度には税収のトップに躍り出て、明治三四年度には税収の半分近い四七%を占めたという。現代でも国税庁が酒税に向ける情熱は衆知のところだ。関東大震災で杉材の値段が高騰し、酒樽の代用として一升瓶の需要が一気に伸びたことや、日中戦争が始まり、戦時経済統制が強化された時代には、あまりに薄いので金魚が泳いでも死なないといわれる“金魚酒”が出回ったことなど、本書には、日本酒を巡るエピソードも豊富に載せられている。日本酒醸造技術の発展、課税システムの変遷、酒造地の形成・展開などを知るには絶好の書といえる。

[評者]山村杳樹(ライター)