海外に研究し尽くされた「なでしこジャパン」の絶体絶命

スポーツ週刊新潮 2015年6月18日号掲載

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 いよいよ、サッカー女子ワールドカップが開幕。連覇のかかる「なでしこジャパン」は、初戦のスイス戦を辛くも勝つことができたものの、今後も苦戦が続くのは間違いない。世代交代に失敗し、4年前と相も変らぬチームは、海外に研究し尽くされているからだ。

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 再び頂点を極めるのは容易(たやす)くはないことを、あらためて思い知らされる試合内容だった。

 6月8日(日本時間9日)、ワールドカップのカナダ大会で、なでしこジャパンは、スイスとの初戦に臨んだ。

「キャプテンの宮間あやがPKを決め、どうにか1対0で逃げ切りましたが、試合を優勢に運んだのは明らかにスイスでした。そのことは、スイス55%、日本45%というボール支配率の数字も物語っています」

 と話すのは、スポーツ紙のサッカー担当記者である。

「本来ならば、チーム全体でパスを回し、試合の主導権を握るのが、なでしこの戦術。ですが、スイスの圧倒的なスピードとパワーでディフェンスラインが押し込まれ、防戦一方になる時間帯が続きました。ボールを繋げず、なでしこ流のサッカーは精彩を欠いていた。決定的な場面で、スイスが何度もシュートを失敗し、運よく勝ち点3を獲得できたに過ぎません」

 FIFAランキング4位のなでしこに対し、スイスは19位。格下の相手に、ここまで手こずったのだ。

 なぜなのか。

「4年前のドイツ大会のときも、なでしこの世界ランキングは4位でしたが、まさか開催国のドイツを準々決勝で退け、決勝でアメリカを撃破し、優勝トロフィーを手にするとは誰も想像していなかった。ただ、あの頃、パス回しを多用してボール支配率を高めつつ、相手の隙を突くという“ポゼッションサッカー”を駆使していたのは、なでしこのみでした。優勝候補としてノーマークだったこともあり、対戦相手はなでしこの戦術に対応することができなかったのです」(同)

 しかし、ドイツ大会以降、アメリカやドイツなどの強豪国は、なでしこの戦術を徹底的に研究するようになったという。

 サッカー日本女子代表の初代監督を務めた、鈴木良平氏が解説する。

「ドイツ大会の翌年、2012年に開催されたロンドン五輪では、早くもなでしこ対策が見て取れました。対戦相手は、プレスをかけられる前にロングパスを出して守備をかわしたり、あるいは、パス回しの起点となるなでしこのボランチの選手を徹底的にマークしてリズムを狂わせようとしていた。とは言っても、中途半端な対策に過ぎなかったので、なでしこにまだ分がありました」

 そのため、ロンドン五輪では、アメリカに敗れはしたものの、銀メダルを獲得するという結果が残せた。

「いまや、そのプレースタイルは、外国のチームに研究し尽くされ、ドイツやアメリカなどの強豪国は、なでしこ流の細かいパス回しや前線からのプレスといった戦術も取り入れるようになりました。なでしこはフィジカルや個人技で劣る部分を組織力で補っていたのですが、優位に立つことができなくなってしまった。身体能力の差が、そのままサッカーの実力の差として表れてしまうことになったのです」(同)

 しかも、なでしこは外国のチームに手の内を知られているうえに、世代交代にも失敗しているのである。

 カナダ大会に招集された代表メンバー23人のうち、17人はドイツ大会の経験者。さらに、スタメンとなると、スイス戦ではGK山根恵里奈、DF有吉佐織のほかは同じ顔ぶれだった。今年3月、ポルトガルでワールドカップの前哨戦となるアルガルベカップが行われたが、佐々木則夫監督は澤穂希などのベテランを外し、田中明日菜といった若手を積極的に起用した。

 ところが、決勝進出を逃し、出場12カ国中9位という、お粗末な結果に終わった。

■独、米、仏が3強

 結局、新たな戦力が育たず、4年前と変わらない代表メンバーに頼らざるを得ないのである。

 別のサッカー担当記者によれば、

「ずっと同じメンバーで戦うメリットは試合経験が蓄積されていきますから、チームワークという面では向上するかもしれません。とはいえ、なでしこのサッカーは、選手の運動量がなによりも重要です。なのに、36歳の澤を筆頭に、スタミナに不安のある30歳以上の選手が6人も選ばれているのです」

 カナダ大会に出場する24カ国の選手の平均年齢は25・0歳。なでしこは27・7歳で、アメリカの28・8歳に次いで、2番目に高齢のチームなのである。

 さらに、メンバーの個々のレベルアップも、十分に図れていたとは言い切れないという。

「不動のエースストライカーである大儀見優季は、ドイツの強豪チーム、ヴォルフスブルクに所属しています。でも、今季22試合のうち、途中出場も含めて9試合しか出場できていない。FWの大野忍やDFの近賀ゆかりはイングランドのアーセナルに移籍しましたが、出場機会があまりなく、今季から日本に戻ってきている。海外のトップチームに所属しても、ゲームに起用されなければ体力や技術が衰えるだけです」(同)

 なでしこの連覇には暗雲が垂れ込めている、というほかないのだ。

 サッカージャーナリストの大住良之氏は言う。

「この大会では、FIFAランキング1位のドイツ、2位のアメリカ、3位のフランス、この3チームが突出した強さを誇っています。ドイツはパワフルさが売りで、アメリカはスピードと高さを兼ね備え、フランスは若手の台頭でいま最も勢いのあるチームです」

 現状、なでしこの実力は、これら3強に次いで、4番手、5番手と見られている。

「ただ、日本は1次リーグの組み合わせに恵まれました。日本の入っているC組は、スイスのほかにはFIFAランキング53位のカメルーンと48位のエクアドル。もし、日本がC組を1位通過し、3強も順当にそれぞれの組で1位通過すれば、日本はいずれとも決勝戦まで当たらずに済むのです」(同)

 もはや、カナダの地でなでしこの大輪を咲かせるには、運を天に任せるほかないのだ。