ダイアモンド☆ユカイ「潔癖症の俺が人糞の堆肥を手で触っている!」/「土いじり」に回帰した「芸能人」の野菜作り

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 紀元前のローマの政治家、キケロによると、自由人に最も適する職業は農業だそうである。現に、華やかな世界に生きる「芸能人」には土いじりへの回帰が増加中だ。

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 もともとはロックンローラーだからさ、野菜なんてまったく興味なかった。10代半ばから30代になっても、フライドポテトやハンバーガー、ポテトチップスとか、とにかくジャンクフードばかり食ってた。キングオブジャンクって感じだよね。酒だって、朝からバーボンを流し込んで、ビールなんてバケツ一杯くらい、一日で飲んでた。ロックンローラーは身体に悪いもんが大好きなんだよ。ジャンクフード漬けの生活を続けていたからか、身体中に蕁麻疹が出たこともあった。

 それでも、野菜は口にしなかったね。子どものころから、玉ねぎ、ピーマン、ニンジンなんて不味くて食えなかった。なんで、こんなものが給食に出てくるんだと腹を立ててたよ。

 そんな俺が、野菜に目覚めたのは、どん底だった時代。10年ちょっと前、最初のヨメと離婚し、ミュージシャンとしての仕事もなくて、“成り下がり”だったころだよ。

 毎日、暇を持て余してて、あるとき、ふと料理でもしてみようかと思い立った。「男の料理」なんて本を買ってきてさ、やってみると、気分転換になった。作れるのは、野菜炒めとか、みそ汁とか簡単なものばっかり。

 カネもないからさ、スーパーで買うのは中国産の安い野菜だった。

 実は、俺のおふくろは公務員だったんだけど、定年を機に、埼玉の実家近くに畑を借りて野菜を作ってた。

 俺が22歳のときに、おやじは亡くなったから、独り暮らしになって趣味で始めたようなもの。だけど、畑は30畳くらいの広さだったから、結構、本格的だったんだ。おふくろは今年で88歳になるから、30年近く、野菜作りをしていたことになる。作った野菜を俺に送ってきたりしたけど、俺はそのまま放っておいて腐らせたりしてたんだよね。

■“ニック・ジャガー”

 でも、料理をするようになって分かったのは、スーパーの野菜よりもおふくろの野菜で作った方が断然うまいということ。

 あるとき、おふくろがジャガイモを送ってきた。スーパーで買ったジャガイモは芽なんて出ないのに、おふくろのはニョキニョキ生えてくるんだよね。それで、スーパーで買う野菜に不安を覚えて、自分で野菜も作ってみようかと思った。ちょうど、おふくろという師匠が身近にいたしさ。

 畑仕事を手伝うようになったものの、分からないことだらけ。おふくろは、自分の排泄物を生ごみや野菜くずなんかと肥溜めで発酵させて、人糞堆肥を作っていた。“なんだ、これ? くせえな”ってブツブツ文句言いながら畑に運んでたんだけど、後からその正体を教えられて、潔癖症の俺としては最悪の気分になったね。

 でも、農作業で身体に付く菌は、悪い菌ではないと思い込んだ。初めて作った野菜はジャガイモ。“ニック・ジャガー”って名付け、愛情込めて育てた。当然、肉じゃがにして食ったけど、その美味さと言ったらなかったね。

 おふくろも高齢になり、俺も仕事が忙しくて、畑の管理ができなくなった。だから最近は、自宅でプランター菜園をしていて、ミニトマトとかイチゴ、ゴーヤとかを作って、5歳の娘と3歳になる双子の息子に与えてる。ロックの尖った部分に毒されて野菜なんて見向きもしなかったけど、今では肉より食ってるよ。

「特集 『土いじり』に回帰した『芸能人』の野菜作り PART2」より

週刊新潮 2015年5月21日菖蒲月増大号掲載

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