「気持ちいい」の最新メカニズム/『オルガスムの科学――性的快楽と身体・脳の神秘と謎』

ビジネス IT・科学 2015年05月20日

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 この原稿を書くために本書を持ち歩き、赤ペンでラインを引きながら読んでいると、多くの知人から「また、そんな本読んでるのかよ」と軽蔑にも似たひと言を投げかけられることがしばしばだった。書店で本書を見かける多くの人もそんな感想を持つだろうが、それが大きな誤解であることをこの欄で訴えたい。

 本書は、米国医学界最高に権威ある学会誌とされる「米国医師会誌」で「性的快感に関する最新の科学的な理解を集大成した素晴らしい一冊」と絶賛され、セクシュアリティ科学研究財団が最も優れた性科学分野の研究書に贈る「B&V・バロー賞」を受賞した。

 実は、オルガスムという現象そのものが進化生物学上の謎の一つであり、まだ解明されていないことがたくさんある。細部にいたっては謎だらけで、「男性と女性で快感が異なるのはなぜか」「年齢とオルガスムには関係があるのか」「下半身不随でもオルガスムを感じるのはなぜか」……。専門家がこうした謎や秘密を探求するのは、脳と身体の複雑な相互関係、すなわち「意識」の謎を解明する鍵になると考えられているからである。

 例えば、痛みを感じているときの表情と、オルガスムの際の表情が似ていることから研究された「『痛み』と『快感』は、脳内の同じ現象なのか?」について、本書の最後で触れられている。著者は「痛みをつらく感じ、快感を気持ちよく感じるのはなぜか」の答えを見つけることが神経科学の究極の目的であると述べている。研究の現状について書かれた本ゆえに、「……についてはまだ解明されていない」という表現が時折現れ欲求不満を誘う難点はあるが、最新の研究の数々には驚くばかり。脳神経科学と内分泌学の最先端の教科書ともいえるだろう。

 もちろん、私がこうした類の本を読むのも、人間の意識の謎や、脳やホルモンの不思議への知的好奇心が満たされるからである。結果として、飲み会の席での下ネタトークに「箔」がつくというメリットもあるのだが。

[評者]鈴木裕也(ライター)