日本の貧困と格差(後篇) 「風俗でも抜け出せない『独身女性』の貧困地獄」――亀山早苗(ノンフィクション作家)

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AVでも稼げない

 かつて、AV(アダルトビデオ)業界が、貧困にあえぐ女性たちの受け皿になっている、と言われたことがある。だが、今やこの業界も厳しいと話すのは、モデルエージェンシー「ハスラー」社長のミュウさん。

「ここ数年、女優への応募は増えていますが、求められる容姿のレベルは年々上がっています。今では20代でも、『ちょっとかわいい』くらいじゃダメ。AVがだめならと風俗へ行っても、市場は同じなので、容姿がハイレベルでないと稼げません。人気のある子だって、AV1本に出演しても15万円くらいにしかなりませんから、仕事がコンスタントになければ食べていけません」

 かつてはAVで当てれば、自分で店をもつことや事業を起こすことができたが、最近のギャラではとても無理なのだそうだ。

「AV女優のギャラが、1本2万円という話も聞きます。それでも仕事を受けてしまう子がいるから、どんどん価格破壊が生じているんです」(同)

 だが、安いギャラを受け入れたとしても、20代も後半になると活躍するのはむずかしい。「若さ」と「美貌」を売りにしなければやっていけない業界では、年齢が大きなネックとなる。

 AVがだめなら、最近増えている激安の性風俗はどうなのだろう。風俗産業は市場規模が5兆円、女性従業員(素人の援助交際は除く)が全国で約5万人にもおよぶと言われる。

 そこに7年前のリーマンショック以降、格安店が激増した。たとえば、「ブス、デブ、ババア」と謳って業界を席巻したデリヘル「鶯谷デッドボール」。客のみならず、仕事を求める女性たちが今、足を運んでいる。

「総監督」と呼ばれるオーナーは36歳で脱サラ、少ない資金で開業できるデリヘルを6年前に始めた。この業界、女性を集めるのが大変だと“修業”した店で実感したが、大変なのは女性の“レベル”を保つことであって、「だったら応募者をみんな雇ってしまえ」という結論に。身分証明書さえあれば、よほどのことがない限り誰でも雇い、彼女たちの個性を売りにする。

「女性に稼いでもらいたいし、私も儲けたい。とにかく貧困に陥っている女性は多いですね。うちは待機所としてマンションを借りているのですが、行くところがなくて、そこに住み込んでいる女性も何人かいます。自立を促すのですが、一度貧困に陥ると、なかなか脱することができない。それは実感しています」

 デリヘルでは初めて、へアメイクの専門家も雇っている。努力して自分を少しでもきれいに見せれば、客も多くつく可能性がある。

 彼の案内で事務所へと足を運び、待機所に住み込んで1年余りのAさん(44)と顔を合わせた。体型は太めだが、ハーフかと思うほど彫りの深い顔立ちで、若い頃はさぞ美人だっただろうと想像できる。ただ、表情がどこか暗い。最初は口数が少なかったが、ふたりきりになると徐々に口を開いてくれた。

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