「南ア」で成功! 「陰茎移植」は殿方を根本的劣等感から解放するか?

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 不謹慎ながら、あらぬ妄想も広がってしまう。南アフリカの医療チームが世界で初めて「陰茎移植」に成功した。殿方は少なからず、太さや大きさなど男性器のサイズに根本的な劣等感を抱えているものである。医学の進歩は、そこからの解放を約束してくれるのか。

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 もしかしたら、阿部定の愛人もこれなら助かっていたかもしれない。

 南アフリカのステレンボッシュ大学の医療チームが3月13日、ケープタウンのタイガーバーグ病院において、世界初の男性器移植手術に成功したと発表したのだ。

 現地特派員によれば、

「男性器移植第1号は21歳の患者で、3年前に性器の包皮を切り取る“割礼”を受けました。しかし、それが失敗し、男性器を失ってしまった。昨年12月、9時間にも及ぶ手術を受け、いまでは排尿、生殖機能ともに完全に回復している。南アでは、多くの黒人部族で、“割礼”の伝統が守られています。適齢期になった若者は、部族の首長や長老などから、数カ月にもわたって、成人教育を施される。そこで、大人の仲間入りをさせるべく、部族の掟などのほか、性交渉の作法なども伝授されるのです」

 その成人教育期間中のメインイベントが“割礼”なのだという。

「ですが、満足に消毒もしていないカミソリとかで男性器の包皮を切り取るものだから傷が化膿し、感染症を引き起こしてしまう。その結果、男性器を切除するはめに陥る若者が年間250人以上にもなり、死に至るケースも後を絶ちません。南アでは、深刻な社会問題になっているのです」(同)

 現在、この病院では他に9人の患者が待機中だそうだが、男性器移植手術とはいったい、どのようなものなのか。

「それほど、難度が高い手術というわけではありません」

 と解説するのは、岡山大学病院ジェンダーセンターの難波祐三郎教授だ。

「まずは、ドナーの男性器と患者のそれとの尿道を繋ぎ、さらに陰茎背動脈や陰茎背神経、海綿体動静脈、勃起神経などを接合することによって、排尿や勃起もできるようになる。患者とドナーとが適合するかどうかに、人種はまったく関係ない。いまでは、人種どころか、血液型や拒絶反応を引き起こすHLA(ヒト白血球抗原)型さえ一致しなくとも、血漿交換や免疫抑制剤などによって臓器移植は可能になっています」

 だとすると、理屈の上では、黒人のジャンボサイズを日本人男性に移植することもできるのか。

「理論的には、無理だということはありません。ただ、ある程度、繋ぎ合わせる男性器の断面の大きさが合致していないと、尿道や血管の縫合が難しくなるという技術的な問題がある。それに、医者としても、皮膚の色やサイズがあまりに異なると、モラルの面からも移植は避けようとするのではないでしょうか」(同)

 男性器移植手術の意義は、あくまでも本来備わっていた機能を取り戻すことであり、当然ながら、劣等感の解消のためではないのだ。

 湘南美容外科クリニックで、性転換手術を担当する村松英俊医師はこう話す。

「日本では、陰茎がんや事故などで男性器を損傷したり、失ったりした患者には、移植ではなく“陰茎再建手術”が施されてきました。自身の腕や太ももなどの皮膚や皮下組織を使って陰茎のかたちに加工し、繋ぎ合わせます。この手術は、心は男性なのに身体が女性であるという性同一性障害の患者にも用いられる。陰茎と尿道を接合すれば、女性でも立ったままでの排尿ができるようになります」

 とはいえ、男性器として万全ではなく、人工の陰茎には海綿体が備わっていないため、勃起することは叶わない。そのため、肋軟骨などから作った勃起プロテーゼを埋め込むことによって硬さを補い、性行為を可能にするという。

「男性器移植手術をすれば、勃起するようになりますが、一生、免疫抑制剤は手放せません。実は、最近になって免疫抑制剤はがん発症のリスクを高めることがわかってきたのです。一方、陰茎再建手術では、勃起を諦めなくてはならず、しかも、陰茎を作るために皮膚や皮下組織を切り取った部分には、大きな傷跡が残ります」(同)

 どちらの手術にも一長一短があるわけだ。

■人間の尊厳

 いずれにしても、これまで日本で、男性器移植手術が行われてこなかったのはなぜなのか。

 難波教授がこう続ける。

「日本では心臓や肺、肝臓や腎臓といった、直ちに生死にかかわる臓器でないと、なかなか移植は認められません。しかし、例えばスウェーデンでは、すでに子宮を移植した女性が子供を産んだケースもある。また、アメリカなどでは大火傷を負った顔面を移植する手術も行われています」

 要するに、海外では生死に直接かかわらなくとも、人間の尊厳を保つための移植手術が行われているのである。

「日本は臓器移植に対する問題意識が低いというほかなく、陰茎移植についても倫理面の議論は何もされていません。なおかつ、陰茎の摘出は脳死段階で構わないのか、心停止後なのかといった線引きもされていない。ですから、もし、陰茎移植が認められるとしても、ずいぶんと先のことになるはずです」(同)

 ならば、現状では、南アに行くしかないのか。

 ステレンボッシュ大学に聞くと、

「今回の手術の執刀医は、複雑な血管と神経の接合が難しかったと話していました。患者は、免疫抑制剤を服用し続けなければなりませんが、ペニスを取り戻せて、“とても嬉しい”と喜んでいます。今後、がんなどでペニスの切断を余儀なくされた患者にも、同じ手術を試みる予定です。もし、日本人の患者が来たら、ドナーとの適合の問題もありますし、手術が受けられるかどうか、すぐには判断できません。大きいペニスが欲しいという人? それは、門前払いです」(広報担当者)

 ともあれ、不幸にも事故や病気で男性器を失った患者は、日本でも少なくないに違いない。

 南アでの陰茎移植の成功は、殿方の切ない期待に沿うものではなかったものの、日本の移植医療の遅れを映し出すことにはなったのだ。

週刊新潮 2015年3月26日花見月増大号掲載

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