危機管理から見た「実名・写真報道」/田中辰巳(危機管理コンサルタント) 少年犯罪の「実名・写真報道」私の考え

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 年明けの1月27日、名古屋大学の女子学生(19)が老女殺害の容疑で逮捕された。その1カ月後には川崎の少年(18)が中学1年生殺害の容疑で逮捕された。

 この2つの事件には4つの共通点がある。第一に容疑者が成年に近い未成年者である。第二に動機と犯行の蓋然性が低い。第三に殺害の手口が極めて残忍。そして第四に週刊新潮が実名と顔写真を報道した。

 少年法をめぐる論争は法曹界に委ねるとして、ここでは国民の「危機管理」という視点での検証をしてみよう。

 人が自分と愛する家族や仲間の生命や幸福を守るために、危機管理をする権利を持つことは明白である。

 さて、殺人という重罪を犯した未成年者は、比較的短期間のうちに国民が生活する社会に戻ってくる。再犯の危惧が完全に排除されたとも言えない状態で。

 そこで問題となるのが、前述した第二の共通点だ。すなわち動機と犯行の蓋然性が低い点だ。

 多くの殺人事件は、強い怨恨という動機が根底にあるため、被害者の側も危機を察知して防御ができる。だが、動機と犯行の蓋然性が低い場合、大多数の国民は無防備なままだ。安易に密室で2人きりになったり、深夜に暗い場所へ同行してしまうだろう。

 マスメディアは、「同一被害の拡大防止、同所および他所での再発防止、利害関係人の知る権利を満たす」、の3点を主な使命として報道を行っている。これに照らしてみると、国民の危機管理のために、どんな危険が何処にあるかを報道したくなるのも無理からぬことだ。週刊新潮も然り。

 そこで、改めて「実名」と「顔写真」の報道を、客観的に一般論として考察してみよう。

 まずはメリットであるが、動機と犯行の蓋然性が低い犯罪に対しても、国民が危機管理をできることである。

 次に主なデメリット。

 実名と顔写真が報道されると、就職が難しくなるのか。答えはノーだ。なぜなら、応募の際には過去の犯罪歴を問われ、正直に申告しなければならないからだ。

 では、居住の場や交友相手が確保できなくなるのか。こちらも答えはノーだろう。殺人という重罪を犯せば、当然人間関係は崩壊する。一方、インターネットが普及した今日、実名はおろか居住地まで明かされてしまうのが実態である。

 このように考えてみると、動機と犯行の蓋然性が低い案件について、実名と顔写真を報道する意義を全く否定することなどできまい。むしろ、国民の危機管理のために、必要とされる案件もある。あくまでも、容疑者に責任能力があると推定されることが前提だが。

 法治国家におけるマスメディアは法を守らなければならないが、時代にそぐわない法律の問題提起も行わなければならない。第四の権力と呼ばれるマスメディア以外に、そんな推進力を持つ存在は見当たらないからだ。

「特集 少年犯罪の『実名・写真報道』私の考え」より

週刊新潮 2015年3月19日号掲載

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