「後藤健二さん」の誘拐保険を妻と娘は受け取れるのか

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 非道としか言い様がないやり方で殺された後藤健二さんにとって、心残りは日本に残してきた妻と2人の娘たちだったに違いない。悲しみに打ちひしがれる家族にとって、残されたもののひとつが誘拐保険だが、本当に支払われるのだろうか。

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 シリアに発つ前の昨年10月、テレビの情報番組で、1日10万円もする誘拐保険に入っていると話していた後藤さん。身代金を要求されたり命を落とした場合、最高で500万ドルが支払われるというが、その保険料の高さから、加入しないまま危険地域に入ってしまうジャーナリストも少なくない。

 後藤さんを知る外務省の関係者によると、

「彼の場合は、たまたま奥さんに定期収入があったから加入できたと聞いています。奥さんはJICA(国際協力機構)の職員で、誘拐保険の保険料も、後藤さんに代わって負担していたそうです」

 3週間ほど前に2人目の娘が生まれたばかりの後藤さんにとって、少なからぬ出費があっても誘拐保険に入ることが、家族を残して旅立つ“安心料”だったのかも知れない。

 一般に、誘拐保険の補償内容は保険料が高いだけあって幅広く、死亡保障や身代金の肩代わりだけでなく、遺体が発見された場合の搬送費用、家族に対する精神的カウンセリングや、住宅ローンが残っていた場合は、利子の支払いも負担してくれる。後藤さんの場合も、これらをカバーしてくれるのだろうか。

 日本の保険会社は扱っていないという誘拐保険だが、探してみると、東京都内にイギリスの保険会社と取引がある保険仲介業者があった。

 その業者に聞くと、

「たしかに当社で仲介している誘拐保険は世界中を対象にしており、その中には戦闘地域や紛争地域も含まれます」

 と断ったうえで、誘拐保険には例外もあると説明するのだ。

「たとえば、外務省から『退避勧告』が出ているなどの非常に危険な地域に入ったりすれば適用になりません。具体的に言えば、今回、後藤さんが誘拐・殺害された場所(シリアのイスラム国支配地域)は、当社が仲介している保険会社でも、残念ながら誘拐保険が使えないのです。後藤さんがどのような保険に入っていたかは分かりませんが、基本的にイスラム国は、保険対象外の地域と考えてください」

 イギリスの外務省(FCO)も、シリアに対してはもっとも危険度の高い「旅行抑止勧告」を出している。家族のために加入した高額の“安心料”が無駄にならなければ良いのだが。

「特集 日本に宣戦布告! 『イスラム国』狂気の残響」より

週刊新潮 2015年2月12日号掲載

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