「幻魔大戦」2000万部 「平井和正」が最後に書いた「ネット小説」

文芸・マンガ週刊新潮 2015年1月29日号掲載

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 地球を滅ぼそうとする魔物と超能力者の終わりなき戦いを描いた「幻魔大戦」シリーズは、累計2000万部以上という大ヒットを記録しただけでなく、多くの作家が影響を受けたものだ。その作者・平井和正氏が晩年、情熱を傾けたのは「ネット小説」だった。

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「父はここ3~4年ほど、高齢のために気力が弱ってしまい、食もどんどん細くなっていました。どこかが悪いのではなく老衰というのでしょうか。心臓が弱くなり血圧が低くなると、体のあちこちが悪くなって昨年の夏から入退院を繰り返していたのです」

 そう話すのは長女で漫画家の摩利さんだ。年明けには意識も朦朧とするようになった平井氏は、1月17日、鎌倉市内の病院で眠るように息を引き取ったという。享年76、心不全だった。

 平井氏といえば、人気漫画「8(エイト)マン」の原作を手掛けたことから一躍脚光を浴び、石ノ森章太郎氏との共著で生み出した「幻魔大戦」はあまりにも有名だ。

「当初のストーリーは、人類の破滅を予告していったん結末を迎えるのですが、その後に続く作品は、いつの間にか平井さんの手による幻魔大戦(小説)、石ノ森さんによる幻魔大戦(漫画)と分裂し、そして再び平井さんの単独作品に戻るという不思議な展開になるのです」(SF雑誌関係者)

「新幻魔大戦」、「真幻魔大戦」と続くうち、累計の発行部数は2000万部を超え、日本のSF小説を代表する大作となったが、大友克洋氏などその世界観に影響を受けた作家は少なくない。社会にも大きなインパクトを与えた。作品の中で語られた「ハルマゲドン(最終戦争)」は、流行語となり、オウム真理教などのカルト教団にも影響を与えたと言われている。

■幻魔大戦は未完のまま

 宗教学者の島田裕巳氏も言うのだ。

「平井氏自身も、一時期、新興宗教のGLAの教えに影響を受けたことがあり、幻魔大戦の主人公も神格化してゆきます。それもあって、幻魔大戦の世界観は、新興宗教に帰依するような若者に大きな影響を与えたと言えるでしょう」

 幻魔大戦をライフワークとして書き続ける一方、平井氏は、いち早くネットを通じての作品発表に乗り出すようになる。

「もともとは80年代に、締め切りが重なって腱鞘炎にかかってしまい、ペンの代わりに、売り出されたばかりの富士通のワープロ(親指シフト)で原稿を書くようになったのがきっかけでした。まだ、誰もが原稿用紙に万年筆で書いていた時代からパソコン通信を使いこなし、94年に発表した『ボヘミアンガラス・ストリート』は日本で初めてのオンラインノベルと言えます」(前出のSF雑誌関係者)

 10年ほど前から、平井氏は小説発表の場を主にネットに移すようになる。だが、2008年に書下ろしの続編「幻魔大戦deepトルテック」などをネット上で発表しているものの、近年は昔の作品をネットに掲載することが多かった。

「最近は目の衰えもあり、パソコンの画面を見ることが辛くなっていたようです。それもあって、創作意欲も目に見えて落ちていました。元気だったら今も新しい物語を書き続けていたはず」(摩利さん)

 かくて、幻魔大戦は未完のままシリーズの幕を閉じるのである。

「ワイド特集 男の顔は履歴書 女の顔は請求書2015」より